マクロス ゼロ | |
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ジャンル | SF・ロボットアニメ |
OVA | |
原作 | 河森正治 |
監督 | 河森正治 |
脚本 | 大野木寛 |
キャラクターデザイン | 齋籐卓也 |
メカニックデザイン | 石垣純哉、宮武一貴、河森正治 |
音楽 | 蓜島邦明 |
アニメーション制作 | サテライト |
製作 | ビックウエスト、バンダイビジュアル |
発表期間 | 2002年12月21日 - 2004年10月22日 |
話数 | 全5話 |
テンプレート - ノート | |
プロジェクト | アニメ |
ポータル | アニメ |
『マクロス ゼロ』(MACROSS ZERO)は、2002年から2004年にかけて発売されたOVA。全5巻。テレビアニメ『超時空要塞マクロス』の前史に当たる作品である。「東京国際アニメフェア2004」において優秀作品賞OVA部門を受賞した。
「マクロスシリーズ」生誕20周年記念として制作されたのが本作である。地球が異星人ゼントラーディとの戦争(第一次星間大戦)に巻き込まれる7か月前、2008年の南海の孤島マヤンを舞台に、現代文明と伝統文明の相克、人類創生の秘密が描かれる。
『超時空要塞マクロス』の舞台となる近未来(2009年)を現実に迎えつつあることから、本作はそれまでの続編作品とは逆にシリーズの過去にさかのぼり、現実世界と架空のマクロスワールドが交錯する過渡期の状況[注 1]に焦点を当てた。F-14やMiG-29という実在する兵器と、可変戦闘機 (VF) やデストロイドという空想未来兵器が同世界のなかに登場する。
監督の河森正治は当初、南の島を舞台にした戦記ものに可変戦闘機の開発エピソードを絡めた短編2本立ての物語を構想していた。しかしロケーション・ハンティング(ロケハン)中にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、ミリタリー的な作風を自粛するムードがあったため、民俗学を下敷きにした神話的作風へ方向転換することになった[1]。また、近作の例にもれず本作でも自然との協調が唄われているが、これらの描写には以前の作品である『地球少女アルジュナ』で開発された生物を3DCGで描画するテクニックが随所に使用されている。
本作の設定について河森は「発表されているマクロスの基本年表には載っていない話」であるとしていた[2]。アメリカでは機密事項の公文書が50年経たないと公開されない場合があるという例を挙げ、本作は歴史から抹消されている前提のエピソードであり、物語の構成ものちのちに伝説として語られるというまとめ方に近いと述べている[3]。
2008年には『マクロスF』(設定年代は2059年)が制作され、これにあわせて改訂された基本年表[4]では、本作の事件が2008年7月に起きたとする記述が加えられ、この時代(2059年)には機密情報が公開されてマヤン島事変やVF-0の存在も公になっていることが示唆された。また、作中では本作の物語がシン・工藤の伝記とされ、『マクロスF』第10話「レジェンド・オブ・ゼロ」ではこれを原作とした映画「鳥の人」として、本作を題材にした劇中劇が登場し、一般市民にも広く知られた「物語」となっている様子が描かれている。また本作の登場人物、マオ・ノームのその後の消息も描かれている。
この『マクロスF』内のエピソードが語るように、すべての「マクロスシリーズ」に共通する「架空の世界(マクロスワールド)の歴史的出来事をモチーフにして、あとから作られた創作作品(フィクション)である」という設定(参照)は本作品においても例外ではなく、史実をモチーフに制作されたが、必ずしも作品内の事象がすべてにおいて史実どおりとは限らないということである。本作ではあえて随所にそれを強調する演出が意図的に盛り込まれている[注 2]。
本作は「マクロスシリーズ」では初めて全面的に3DCGを導入した[5]。1994年制作の『マクロスプラス』では一部のみの使用だったが、その後『マクロス VF-X2』などのゲーム開発で経験を積み、本作ではメカ以外にも背景の立体的な空間表現などを試みている。
制作の中心は河森が所属するサテライト。『地球少女アルジュナ』で実績のあるトゥーンレンダリングを使う予定であったが、『戦闘妖精雪風』など他作品との違いを明確にするため、新たにテクスチャマッピングによる質感の表現法を模索することになった。写真とイラストの中間イメージ的なテクスチャを描くため、ハセガワのマクロスシリーズ模型でボックスアートを手がけるイラストレーター天神英貴が参加し、色調やライティングの調整を行った。
板野一郎が関わった最後のシリーズ作品でもある。本シリーズの代名詞である「板野サーカス」をCGで再現するため、板野自身が特技監督としてモーション監修を行い、3DCGでは軽く見えがちなメカアクションの演出を指導した。戦闘機の3DCGは、アニメーションがキーフレーム間を自動補間するのではなく、通常のアニメと同じように、すべてのモーションを手打するという手法をとっている。VF-0のメカ描写には特に多くのカットが割かれ、説得力のある変形シーケンスや、標的を眼で追うだけで次々とロックオンしていく制御系は、以降のVFシリーズに継承され、VF-25等の最新鋭機にも採用されていることが『マクロスF』の作中で描かれている。第一章では戦闘機形態(ファイター)の3DCGモデルから変形させたロボット形態(バトロイド)が華奢に見えたため、第二章以降は中間形態(ガウォーク)、バトロイドも別個に見映えのいいモデルを作り使い分けている。
一方で、3DCGで迫力が描ききれない場合は通常の手描き作画で処理している[注 3]。
約2年間の制作期間中3DCG技術の試行錯誤は続き、その経験は『創聖のアクエリオン』『マクロスF』に生かされることになる。河森は本作の設計はテレビ画面では「体感」として伝えきれないもので、そのぶん台詞で説明しなければならないため、OVAよりは大画面・大音響むきの作品だったと振り返っている[6]。
本作品のCGIチームは板野がフライングシーケンスディレクターを担当した特撮映画『ULTRAMAN』(2004年)に参加している[7]。その後板野を通じて円谷プロダクションのCGIチームにノウハウが継承されており、後年の特撮作品にも影響を与えている[7]。
1999年7月、のちにマクロスと名づけられる異星人の宇宙船が地球へと落下した。この艦よりもたらされたさまざまなオーバーテクノロジーの奪い合いに端を発する争いは、やがて統合戦争と呼ばれる世界的な戦争に発展する。
戦争末期の2008年。地球統合軍の戦闘機パイロット工藤シンは、反統合同盟との交戦中、人型に変形する新兵器、可変戦闘機SV-51に乗機を撃墜され、今なお伝説が生きる南海の孤島、マヤン島に流れ着く。そこでシンは「風の導き手」と呼ばれる島の巫女サラ・ノーム、その妹で都会にあこがれる少女マオ・ノームと出会う。マオとの関わりのなかで、心を閉ざしていたシンは笑顔を取り戻し、かたくなに島の掟を守り、よそ者を警戒するサラとも次第に打ち解けてゆく。
一方、落下した宇宙船と同様の反応を示す物体がマヤン島付近の海底に沈んでいることを察知した統合軍は、「AFOS(エイフォス)」と呼称されるこの古代の遺物を回収すべく、可変戦闘機VF-0を配備した特務部隊を派遣し、反統合同盟はこれに奇襲攻撃を仕掛ける。両者の争いに巻き込まれたシンは統合軍に合流し、ロイ・フォッカー少佐が率いる可変戦闘機部隊「スカル小隊」に配属され、機種転換訓練を受ける。そしてシンは、フォッカーの大学時代の先輩で、AFOSとマヤン島の調査のために部隊と同行する文化人類学者アリエス・ターナーの護衛任務を与えられ、マヤン島に戻ることになる。
シンは森のなかで、サラの歌に反応して花が開き、周囲の岩が宙に浮かびあがる光景を目撃する。これについてサラは、争いが島に持ち込まれたことで、マヤンの伝説にうたわれる人類の創造主にして、終末の日に「滅びの歌」を歌うとされる「鳥の人」の目覚めが近づいている兆候だと話す。シンとサラが接近したことで、ふたりの仲が気になるマオは、シンを海底に連れていき自分の「宝物」を見せる。その正体はAFOS、すなわち「鳥の人」の首で、反統合同盟は統合軍に回収された胴体と、この首を狙って動き出す。シンはマオの頼みを受けて「鳥の人」の首を奪還するが、反統合同盟の攻撃によりマヤンの村は火の海と化し、シンの機体は撃墜され首も所在不明となる。戦闘に巻き込まれ幼児退行を起こしたマオはアリエスの指示により、統合軍の研究チームに引き渡される。
シン、サラ、アリエスは反統合同盟に捕らえられ、そこへアリエスの師、Dr.ハスフォードが姿を現す。ハスフォードはかつてサラをそそのかして島の掟を破らせたことで「鳥の人」の秘密を知り、これを呼び覚まそうとしていた。その言葉にサラが心の傷をえぐられ悲鳴をあげると、「鳥の人」をかたどった岩が飛来し、シンとサラはこれに乗って脱出する。掟を破ったせいで島に災いを招いたと自分を責め、傷ついた森を癒すために歌うサラに合わせ、シンはサラの心を癒すために歌い、やがてふたりは口づけを交わす。一方、人の血液と同じ組成をもつ「鳥の人」の体液を輸血され、マヤンの儀式によって巫女の力に目覚めたマオは災いの到来を感知し、ほどなくして反統合同盟によりマヤン島に気化爆弾が投下される。
森が焼き払われたことによって発見された「鳥の人」の首、そしてサラとアリエスは反統合同盟の手に落ちる。シンとフォッカーはそれぞれの大切な女性を救うためVF-0で出撃し、立ちはだかる反統合同盟のパイロットたちと激戦を繰り広げる。しかし、サラの眼前でシンの機体は撃ち落とされ、その悲しみに呼応して「鳥の人」の胴体と首が結合し、覚醒を遂げる。サラを取り込んだ「鳥の人」は、銀河に進出する力を持ちながら争いを続ける人類を消し去るべく「滅びの歌」を歌い、絶大な力で両陣営への攻撃を開始する。シンは怒りと恐れにとらわれて「鳥の人」を攻撃しようとするが、マオの言葉を受けて武装を解除し、サラを信じて呼び掛け正気を取り戻させる。しかし統合軍は「鳥の人」を破壊すべく「オペレーション・イコノクラスム」を発動し、反応弾を発射する。サラは島を守るため「鳥の人」のバリアを展開して爆発する反応弾を包み込み、そのまま空の彼方へと消え去る。アリエスを救えなかったフォッカーはその最期を看取り、機体が破損し脱出不能となったシンは、サラとマヤンの民の歌声を耳にしながら、金色に輝く海に没する。そして、シンの機体が海中から光に包まれて浮上し、天高く飛び立ってゆく光景が描かれ、物語は終わる。
本作の舞台となるマヤン島は、東南アジアの洋上に浮かぶ熱帯雨林に覆われた島。豊かな自然のもとで漁や採集を中心とした生活を営み、古の「鳥の人伝説」を信じる島民が伝統社会を守ってきたが、徐々に現代文明に染まりつつあり、発電機や衛星アンテナも置かれている。男性の多くは出稼ぎや徴兵により島を出ており、残っているのは女性や子供、老人ばかりである[* 1]。
マヤン島の伝承では原初、世界には海と風があり、海に住む「魚の人」が、星々を渡る「鳥の人」に対し、空を飛べはしても海の深さを知らないだろうと笑ったところ、怒った「鳥の人」によって尾びれを切られ、そこから足が生えて最初の人「ローイカヌ」になったといわれている[* 1]。舟で旅に出たローイカヌが喉を潤す泉がないことを嘆くと、「鳥の人」は海亀を落とし、砕けた甲羅がマヤンの島々となり、島に上がったローイカヌが孤独を嘆くと「鳥の人」は自分の首をはね、その血が最初の女「ローイワカ」となり、ふたりは結ばれ数多くの子をなしたという[* 2]。その後、ローイワカは星々の海に帰り、ローイカヌに対し、自分が戻るときは「天の定め」が乱れ、世界に「滅びの歌」が轟く日だと告げたとされる[* 2]。
マヤン島には「鳥の人」に由来するさまざまな伝説が残されており、これをかたどった像も多数作られている。聖なる山の洞窟から聞こえる音は、ローイカヌが「鳥の人」に赦しを乞う歌声だと伝えられる[* 3]。近海にはトビウオが棲息しており、マヤンの民は海を泳ぎながら空を飛びたがるトビウオのことを、ローイカヌとローイワカの最初の子供だと言い伝えている[* 3]。
島の掟により隠されている言い伝えによれば、「鳥の人」は天の神プロカチャによって「滅びの歌」を歌うよう命じられ、みずからの首をはねてこれを食い止めたが、「人と人、人と大地の絆」が切れるごとに首と体が近づき、やがて「滅びの歌」を歌う日が来るとされる[* 4]。
マヤン島においては「カドゥン」なるものの存在が信じられている。島の「聖なる巡り」が遮られると風が濁り、草の裏にカドゥンが巣食うという[* 1]。太古の昔より歌と掟を守ってきたというマヤンの巫女「風の導き手」は、村をカドゥンから守る役目を担う存在でもあるとされる[* 2]。「風の導き手」のサラ・ノームは、外から来た人間(マヤンの民がいう「白い人」)が「争いのカドゥン」を持ち込んだことによって「絆」が弱まり、「鳥の人」の覚醒が近づいていると語る[* 3]。島の者がカドゥンに取り憑かれたとみなされた場合、「プキヌハ」と呼ばれる儀式が行われる[* 4]。これが終わると、その者は新しい命に生まれ変わったとされ、カドゥンに負けない存在になるという[* 4]。
日常においては、男性が「ヤリウェイ」と呼ばれる、長さ1mほどの木製の棒をそれぞれ形を工夫して作り、好きな女性に見せ、夜になって男性が女性のもとを訪ねて行ったときにこれを差し入れるという風習がある[* 1]。女性は気に入った男性だとそのままふたりでデートをするというものだが、マヤン島で目覚めたシンは知らずにヤリウェイを武器として携行し、目の前に現れたサラに突き付けて凄んだために、周囲にはおかしな光景として見られることになる[* 1]。マオはラブレターのようなものだと説明し、シンはラブスティックと呼ぶ[* 1]。本来は男性が自分で作るものだが、サラは副業としてヤリウェイを数多く作り、生計の足しにしている[* 1]。
半世紀後を舞台とする『マクロスF』第10話「レジェンド・オブ・ゼロ」では、マクロス・フロンティア船団においてシン・工藤の伝記をもとにしてマヤン島事変を描いた映画「BIRD HUMAN -鳥の人-」が製作され、生態系艦アイランド3内にセットとしてマヤン島の環境が再現される。『劇場版 マクロスF』では、主人公たちが慰安旅行で訪れるマクロス・フロンティア船団内の人工島がマヤン島と呼ばれる。
マヤンの神話にうたわれる「鳥の人(とりのひと)」の正体は、約50万年前、銀河に一大星間文明を築き上げた知的生命体プロトカルチャーが、太古の地球を訪れ人類の祖先に遺伝子操作を行ったあと、一種の監視装置として遺したものである。やがて人類が進化して宇宙へ進出する段階に達したとき、「争いのカドゥン」に取り憑かれ好戦的な種族となっていた場合は、災いの元として消去するよう仕掛けられていた[* 5]。マヤン島に住む「風の導き手」と称される巫女の一族は、この発動を食い止める、あるいは発動させる鍵となる存在とされる[* 5]。
「鳥の人」は胴体と首が切り離された状態で海底に眠っており、統合軍はASS-1から得たオーバーテクノロジーにより稼働させた時空変動レーダー「サイクロプス」によってこれを発見し、「AFOS(エイフォス)」というコードネームで呼称する[* 1]。回収した胴体部分から流れ出る体液は地球人類の血液とほぼ同じ組成をもち、その血液型はマヤンの巫女と同じ「アルファ・ボンベイ」であることが解析される[* 3]。
一方の首はマヤン島近海の底に沈んでおり、その存在を知るマオ・ノームはこれを「宝物」と呼んでいた[* 3]。反統合同盟がこれを発見し回収するが、「風の導き手」の叫びに呼応して胴体と首が結合し、空中の元素を固定して巨大な翼のようなものを広げた姿へと変化する[* 5]。声(中田譲治が担当)が頭部に取り込んだ「風の導き手」に、人類がいまだ争いを続けていることを確認すると、「滅びの歌」を歌い攻撃を始める[* 5]。ASS-1の時空構造変換システムに酷似した器官をもち、重力制御やフォールド(時空転移)も可能で[* 2]、その攻撃は瞬時に艦隊を壊滅させる威力をもつ[* 5]。
統合軍のAFOS調査艦隊は、鳥の人が復活して制御不能となった場合、これを完全に破壊せよとの密命により、「オペレーション・イコノクラスム」と呼ばれる作戦を始動することになっており[* 5]、最終手段として、威力調整型の反応弾頭が使用される。
『マクロスF』においては、その容姿はプロトカルチャーが神格化していた生命体、バジュラを模したものとされる[* 6]。通常の艦には使用されない高純度のフォールド鉱石を搭載したシステムであり、のちにプロトカルチャー研究者となったマオはフォールド鉱石を通じてサラの歌声を感知し、「鳥の人」の情報を追って惑星ガリア4に到着したとされている[9]。
話数 | サブタイトル | 絵コンテ | 演出 | 作画監督 | 発売日 |
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第一章 | 海と風と | 河森正治 | ところともかず | 齋藤卓也 | 2002年12月21日 |
第二章 | 地上の星 | - | 西山明樹彦 | 齋藤卓也、大久保宏 水畑健二、仲田美歩 藤原潤 |
2003年5月23日 |
第三章 | 蒼き死闘 | 河森正治 | 田中孝行 | 齋藤卓也、水畑健二 松山光治 大久保宏(メカ) |
2003年11月28日 |
第四章 | 密林 | ところともかず 河森正治 |
ところともかず | 齋藤卓也、鷲田敏弥 入江篤、水畑健二 |
2004年5月28日 |
最終章 | 鳥の人 | 工藤進 | 齋藤卓也、鷲田敏弥 | 2004年10月22日 |
ビクターエンタテインメントより発売。
バンダイビジュアルより発売。