マックヒューストン・"ミッキー"・ベイカー (MacHouston "Mickey" Baker、1925年 10月15日 [ 1] - 2012年 11月27日 )は、アメリカ合衆国 のギタリスト で、もっぱらスタジオ・ミュージシャン としての業績と、レコーディング・デュオのミッキーとシルヴィア (英語版 ) のメンバーとして知られる[ 2] 。
ベイカーは、ケンタッキー州 ルイビル に生まれた[ 1] 。母親は黒人であったが、ベイカーが会ったことのない父親は白人であったと考えられている[ 3] 。
1936年 、11歳だったベイカーは孤児院 に入れられた。彼はそこからしばしば逃亡し、その都度スタッフの手でセントルイス から、ニューヨーク から、シカゴ から、また、ピッツバーグ から連れ帰された。遂には、施設側もベイカーを探すのを断念し、16歳のときにはニューヨークに定着した。彼は労務者として、次いで皿洗いとして働いた。やがて26丁目の撞球場 に出入りするようになると、彼は仕事をやめてフルタイムの玉突き のいかさま賭博 師となった。
19歳になったベイカーは、生活を変えることを決意する。彼は皿洗いに戻り、ジャズ・ミュージシャンになることを決意する。最初に選んだ楽器はトランペット だったが、14ドルしか持ち合わせのなかった彼は、質屋 を探したものの、その金額で買えたのはギターだけであった[ 4] 。
彼は、ニューヨーク音楽学校 (The New York School of Music) に入学したが、学修の進度が遅いと感じた。やがて退学し、自学自習を始めたが、程なくして挫折してしまう。6か月後、彼は、とあるストリートミュージシャン のギタリストに出会い、演奏を再開するよう示唆された。彼は続く数年の間、何人ものギタリストの教えを乞いプライベート・レッスンを受け続けた。彼の音楽のスタイルは、サクソフォーン 奏者チャーリー・パーカー に影響を受けている。
1949年 、ベイカーは自身のコンボを組みながら、いくつもの仕事を掛け持ちしていた。彼は、西海岸へ移ることを決意したが、当地の聴衆はプログレッシブな形態のジャズを受け入れないことを知らされる。ベイカーは、仕事もないままカリフォルニア州 を彷徨い、そこでブルース・ギタリストのピー・ウィー・クレイトン (英語版 ) のショーを観た[ 5] 。この出会いについて、ベイカーは次のように述べている。
俺はピー・ウィーに尋ねた。「つまり、ギターでこんな簡単なことができれば金になるって言うのかい?」何しろ奴はでっかい白のエルドラド を乗り回してて、バンドのためのどでかいバスも持ってた。そこで俺も、弦をベンド し始めた。俺は餓死しかけていて、当時の俺にとってブルースは単に金になる手段だった。
ベイカーは、カリフォルニア州リッチモンド でいくつか仕事を見つけ、ニューヨークへ戻れるだけの金を稼いだ[ 4] 。
東部へ戻ったベイカーは、サヴォイ 、キング 、アトランティック・レコード への吹き込みを始めた。そして、ドク・ポーマス 、ドリフターズ 、レイ・チャールズ 、アイヴォリー・ジョー・ハンター (英語版 ) 、ルース・ブラウン ,、ビッグ・ジョー・ターナー 、ルイ・ジョーダン , コールマン・ホーキンス 、など数多くのミュージシャンたちとセッションをおこなった[ 6] 。
レス・ポール&メリー・フォード (英語版 ) の成功に刺激されたベイカーは、ギターの教え子の一人だったシルヴィア・ロビンソン と組んで、ポップ ・デュオ、ミッキー&シルヴィア (英語版 ) を1950年代 半ばに始めた[ 5] 。ふたりは1956年 にはシングル・ヒット「Love Is Strange 」を出した[ 5] 。1958年 後半に、このデュオを解消した後、ベイカーは、キティ・ノーブル (Kitty Noble) と組んで、ミッキー&キティ (Mickey & Kitty) として活動した[ 7] 。このデュオは1959年 に、アトランティック・レコード から3枚のレコードを出した[ 8] 。1959年 後半、ベイカーは、ソロ・デビュー作となるアルバム『The Wildest Guitar 』をアトランティックから出した[ 9] 。ミッキー&シルヴィアは、1960年 に再結成し、その後も1960年代 半ばまで散発的に、一緒に吹き込みを続けた[ 2] 。
この頃、ベイカーはフランス へ移住し、当地でロニー・バード (英語版 ) やシャンタル・ゴヤ と仕事をして、新たなソロのレコードもいくつか制作した[ 2] 。彼は、その後、終生フランスにとどまることとなった。ベイカーは、仕事にあぶれるということは滅多になかった。自著のギター教則本用の演奏シリーズのほか、1970年代 にはイギリス のレーベルであるビッグ・ベア・レコード (英語版 ) から2枚のアルバムをリリースしておりそのうちの1枚『Take A look Inside 』は個人名義で、もう1枚は、伝説的なトロンボーン 奏者ジーン・コナーズ (英語版 ) のサイドマンを務めたものであった[ 10] 。
ベイカーは、1975年 のロスキレ・フェスティバル に出演した。
ベイカーは、私生活について多くを明かさなかったので、彼がフランスへ移住した理由は完全には明らかにされていない。メディアの言説の中には、ベイカーがアメリカ合衆国の商業音楽産業におけるビジネスの側面にうんざりしたのだとするものもあるが、別の言説によれば、公民権運動の高まりの中でアメリカ合衆国の南部ではヘイト・クライムの危険も大きくなっており、白黒混血であった彼は怒りの矛先を向けられやすかったのだ、ともいう。
ベイカーは私生活を可能な限り明らかにせず、インタビューにもほとんど応じることはなく、公の場に姿を見せることも稀であった。フランスへ移り住んだ後は、彼はほとんどフランスを離れず、アメリカ合衆国へ帰国することはごく稀にしかなかった。
ベイカーは生涯に6回結婚した。バーバラ・カステリャーノ (Barbara Castellano) は、1950年代 半ばから1970年代 半ばにかけての妻であった。また、歌手マリー・フランス=ドレイ (Marie France-Drei) は、1980年代 はじめからベイカーの死まで妻であった。
ベイカーには、息子 MacHouston, Jr. と、娘 Bonita Lee というふたりの子どもがいた。
ベイカーは、2012年 11月27日 に、フランス 、トゥールーズ 近郊で、87歳で死去した[ 11] [ 12] 。妻マリーによれば、死因は心不全と腎不全であったという [ 3] 。
ベイカーが著した、自習用教則本のシリーズ『the Complete Course in Jazz Guitar 』は、ギターを学び始める者をジャズの世界へと導く礎となっている。このシリーズは、出版から50年以上も市場にとどまっている。
1999年 、ベイカーは、リズム・アンド・ブルース・ファウンデーション (英語版 ) から、パイオニア賞 (the Pioneer Award) を贈られた。
2003年 、ベイカーは、『ローリングストーン 』誌の選ぶ「史上最も偉大なギタリスト100人 (100 Greatest Guitarists of All Time)」で、53位となった[ 13] 。
2004年 、「Love Is Strange」は、グラミーの殿堂 入りを果たした。
The Wildest Guitar (Atlantic, 1959)
Bossa Nova en Direct du Bresil (Versailles, 1962)
Mickey Baker Plays Mickey Baker (Versailles, 1962)
But Wild (King, 1963)
Bluesingly Yours with Memphis Slim (Polydor, 1968)
Mickey Baker in Blunderland (Major Minor, 1970)
The Blues and Me (Black and Blue, 1974)
Take a Look Inside (Big Bear, 1975)
Tales from the Underdog (Artist, 1975)
Mississippi Delta Dues (Blue Star, 1975)
Up On the Hill (Roots, 1975)
Blues and Jazz Guitar (Kicking Mule, 1977)
Jazz Rock Guitar (Kicking Mule, 1978)
Sweet Harmony (Bellaphone, 1980)
Back to the Blues (Blue Silver, 1981)
The Legendary Mickey Baker (Shanachie, 1991)
New Sounds (Legacy, 2015)
コレット・マグニー (英語版 ) のアルバム
Melocoton (CBS, 1963)
Frappe Ton Coeur (Le Chant du Monde, 1963)
Colette Magny (Le Chant du Monde, 1967)
その他
ビッグ・メイベル (英語版 ) The Okeh Sessions (Charly, 1983)
ロニー・バード L'amour Nous Rend Fou (Decca, 1964)
クラレンス・"ゲイトマウス"・ブラウン , The Blues Ain't Nothing (Black and Blue, 1972)
ナッピー・ブラウン Don't Be Angry! (Savoy, 1984)
ルース・ブラウン Ruth Brown (Atlantic, 1957)
ルース・ブラウン Miss Rhythm (Atlantic, 1959)
ソロモン・バーク 1960 Debut Album (WaxTime, 2018)
ミルト・バックナー (英語版 ) Rockin' Hammond (Capitol, 1956)
エリック・シャルダン (英語版 ) Eric Charden (Vega, 1963)
ジーン・コナーズ () Let The Good Times Roll (Big Bear, 1973)
バック・クレイトン Buck Clayton and Friends (Gitanes Jazz, 2007)
ジミー・ドーキンス (英語版 ) Jimmy Dawkins (Vogue, 1972)
ジャン・ジャック・ドゥブー (英語版 ) Jean-Jacques Debout (Vogue, 1964)
ビル・ドゲット (英語版 ) Moondust (Odeon, 1959)
チャンピオン・ジャック・デュプレー (英語版 ) Champion Jack Dupree and His Blues Band Featuring Mickey Baker (Decca, 1967)
チャンピオン・ジャック・デュプレー I'm Happy to Be Free (Vogue, 1972)
ステファン・グロスマン (英語版 ) Friends Forever (Guitar Workshop, 2008)
コールマン・ホーキンス , Disorder at the Border (Milan, 1989)
スクリーミン・ジェイ・ホーキンズ At Home with Screamin' Jay Hawkins (Epic, 1958)
スクリーミン・ジェイ・ホーキンズ ...What That Is! (Philips, 1969)
リトル・ウィリー・ジョン Fever (King, 1956)
ルイ・ジョーダン Somebody Up There Digs Me (Mercury, 1962)
ブッカー・T・ローリー (英語版 ) Nothing but the Blues (Blue Silver, 1981)
ブッカー・T・ローリー Booker in Paris (EPM, 1992)
メンフィス・スリム (英語版 ) Very Much Alive and in Montreux (Barclay, 1973)
ジミー・スコット If You Only Knew (Savoy, 2000)
ソニー・テリー (英語版 ) & ブラウニー・マギー (英語版 ) Back Country Blues (CBS, 1958)
シルヴィ・ヴァルタン Sylvie Vartan's Story 1962 & 1963 (RCA Camden, 1969)
^ a b Colin Larkin , ed (1995). The Guinness Who's Who of Blues (Second ed.). Guinness Publishing . p. 20. ISBN 0-85112-673-1
^ a b c Unterberger, Richie (1925年10月15日). “Mickey Baker - Music Biography, Credits and Discography ”. AllMusic. 2012年11月27日 閲覧。
^ a b Weber, Bruce (30 November 2012). “Mickey Baker, Guitarist, Is Dead at 87” . The New York Times . https://www.nytimes.com/2012/11/30/arts/music/mickey-baker-guitarist-whose-riffs-echo-today-dies-at-87.html?_r=0 2014年5月21日 閲覧。
^ a b Liner notes for The Legendary Mickey Baker by Stefan Grossman
^ a b c Russell, Tony (1997). The Blues - From Robert Johnson to Robert Cray . Dubai: Carlton Books Limited. p. 89. ISBN 1-85868-255-X
^ Mickey Baker (1925年10月15日). “Mickey Baker - Credits ”. AllMusic. 2012年11月27日 閲覧。
^ “New York Beat” . Jet : 64. (April 2, 1959). https://books.google.com/books?id=kkEDAAAAMBAJ&q=Mickey+Baker+jet+1959&pg=PA64 .
^ “The Billboard Spotlight Winners of the Week” . Billboard : 76. (April 20, 1959). https://books.google.com/books?id=VyEEAAAAMBAJ&q=mickey+sylvia+billboard+1959&pg=PA76 .
^ “Reviews and Rating of New Albums” . Billboard : 57. (December 7, 1959). https://books.google.com/books?id=5QcEAAAAMBAJ&q=mickey+wildest+guitar+billboard+1959&pg=PA57 .
^ Wirz, Stephen. “Illustrated Big Bear Records Discography ”. 2023年2月17日 閲覧。
^ Doc Rock. “The Dead Rock Stars Club 2012 July To December ”. Thedeadrockstarsclub.com. 2012年11月27日 閲覧。
^ “Décès du guitariste de jazz Mickey Baker” (フランス語). L'Express . (27 November 2012). http://www.lexpress.fr/culture/musique/deces-du-guitariste-de-jazz-mickey-baker_1192423.html 27 November 2012 閲覧。
^ “100 Greatest Guitarists: David Fricke's Picks: Mickey Baker ”. Rolling Stone (2010年12月3日). 2012年11月27日 閲覧。