ミュゼット (musette )は、フランス の地方の民族音楽 と、そこから派生した様々な音楽概念について用いられる。
17世紀から18世紀にかけてフランスの貴族階級の間で大流行したバグパイプ。口からではなく、小脇に抱えたふいご 送風式のバグパイプ で、ミュゼット・ド・クール (仏語 :musette de cour )ないしはバロック・ミュゼット(英語 :baroque musette )と呼ばれる。ハーディ・ガーディ とともに、想像上の「理想郷」あるいは「桃源郷」に住む羊飼いの楽器として扱われた。この楽器からイメージされた「ミュゼット」と題された小品も多く作曲された。
民族楽器のミュゼットのために作曲された旋律や舞曲のこと。あるいは、ミュゼットの響きを模した牧歌的な楽曲の意味でも使われる。後者の意味のミュゼットは、フランソワ・クープラン によってクラヴサン 作品として、またマラン・マレ によってヴィオール 作品として作曲されている。
フランスの様々な地域において、伝統的な民族音楽 に利用されるシャリュモー (キーなしのオーボエ )のこと。たいていの場合は、現代のオーボエよりも数音高い。ピッコロ・オーボエ をキーつきのミュゼットとして作るオーボエ製作者がいるため、時にミュゼットとピッコロ・オーボエが混同され、ミュゼットがピッコロ・オーボエと呼ばれることもある。
アコーディオン に用いられる調律法 の一つ。英語で「ウェット・チューニング」と呼ばれる方法に該当。2つかそれ以上のリード を互いに心もちピッチ 外れに調律して、ビブラート の効果が出るようにする。本来の「ミュゼット・チューニング」は、3つのリードを用い、1つをピッチに合わせ、1つをやや高く、残りの1つをやや低く調律する。しかしながら、多くのアコーディオンは、2個1組のリードしかないため、互いにピッチ外れにするしかない。また、「クラリネット」や「ヴァイオリン」とともに、「ミュゼット」がアコーディオンのある音域のリードの意味にも使われる。フランスのアコーディオンの響きの輝かしさは、高音域に相当するミュゼットの音色 へのフランス人の偏愛のためもある。
1880年代 から1940年代 にかけて、アコーディオンを押し出したフランスのポピュラー音楽 の一つ。中でもバル・ミュゼット (フランス語版 、英語版 ) が代表的。
オーボエ(ミュゼット) 1834年 - Private collection Dominique Enon