リリイ・シュシュのすべて | |
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監督 | 岩井俊二 |
脚本 | 岩井俊二 |
出演者 |
市原隼人 忍成修吾 蒼井優 伊藤歩 大沢たかお 稲森いずみ |
音楽 | 小林武史 |
撮影 | 篠田昇 |
編集 | 岩井俊二 |
配給 | ロックウェル・アイズ |
公開 | 2001年10月6日 |
上映時間 | 146分 |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
『リリイ・シュシュのすべて』(dž[1] All About Lily Chou-Chou)は、2001年に公開された岩井俊二監督の日本映画、またその原作および岩井俊二によるインターネットの掲示板を用いた誰でも書き込みができる実験的なインターネット小説。2004年に角川文庫から単行本が刊行されている。
まず、インターネット小説が公開され、後に原作本と映画が制作された。空をリンクさせた構成と、現代の少年問題をセンセーショナルに描いた内容が大きな話題を呼んだ。
岩井によると、「遺作を選べたら、これにしたい」作品。
物語のキーパーソンとなるリリイ・シュシュ役は後にソロデビューする歌手のSalyuであるが、本映画内ではプロモーションビデオの映像でのみ姿を現す。
2010年12月8日に、本作の発表十周年を記念して、期間限定のオンラインショップ「十周年記念オンラインショップ」がオープンした。そのサイトで公開後に発売されたDVDビデオ『リリイ・シュシュのすべて 特別版』や公開時のグッズを再発売したものを販売している。
当初は日本の岩井俊二、台湾のエドワード・ヤン、香港のスタンリー・クワンの3人の映画監督により発足したY2Kプロジェクトの一環として、香港のアーティスト「リリイ」と台湾に住む少年の物語として映画の構成が練られており、プロモーションビデオとしてリリイ・シュシュの楽曲「グライド」の撮影もされたが、岩井監督自身の「この物語の正体をとらえきれていなかった」[2]という考えによりこの企画は一旦白紙とされた。
その後、映画の音楽を担当していた小林武史がリリイのイメージを基に「共鳴」という楽曲を制作し、それを聞いた岩井俊二は映画以外の手法による表現も可能ではないかと考え、舞台を日本に、また媒体をインターネットに移し、2000年4月1日にインターネット小説として発表した。
このインターネット小説は、リリイ・シュシュの熱狂的なファンであるサティという人物が、2000年4月1日にリリイのファン・サイト「Lily holic(リリイホリック)」を開設した、と言う設定で作られており、基本的には物語は掲示板を使って岩井俊二自身により書かれる“書き込み”によって進行していく。その際岩井俊二はサティ以外にも複数の人物を使い分けて書き込みをしていくが、この掲示板には閲覧している一般人も書き込みが可能であり、その一般人の書き込みも小説の一部として進行していくという実験的なものであった。
この設定に関する説明はトップ・ページに「このサイトは小説です」という一文しかなく、岩井俊二自身も何が起こるか予測できないと危惧していたが、サイトの趣旨を理解しない書き込みや荒らしなどもあるものの、多くの一般人が自身を「小説の登場人物」と理解した上で、または実際にリリイのファンとなった上での書き込みを行い、それにより物語の世界がさらに深まる結果となった。 (ただし同年5月16日からは一般人の書き込みは不可能になり、主人公であるサティの独白形式で物語が進行していくことになる。それは同年7月11日まで続き、その後再び一般の書き込みも可能となった。現在もこの掲示板は書き込み可能な状態となっている。またサティの独白期間に公式の裏掲示板が設けられたことがあり、サティの独白に対する反応がリアルタイムに書き込まれていった。)
インターネット小説の連載終了後、サティの独白部分を基に映画版のシナリオ第2稿が執筆され、岩井俊二自身によって映画化されることになった。
大半の撮影は物語のキーワードでもある田園の広がる地方都市、栃木県足利市と群馬県太田市で行われ、当時最新技術のHD24Pで撮影された。ただし物語の転換点であり、登場人物がホームビデオで記録しているという視点である西表島での撮影は、敢えてハンディカメラのみを使用している。そのため、この部分は他の部分と比較し著しく画質が低い。
この作品では中学生たちのいじめ、恐喝、万引き、援助交際、レイプ、殺人、自殺など社会の闇の部分を描いているため、過激な表現も少なくない。そのため役者には体当たりな演技が求められ、生徒役の少年が全裸で田んぼの中を泳いだり、人前での自慰行為を演じたり、少女に丸刈りにされたりしている。
クライマックスのライブ会場での撮影にはインターネットや雑誌などで募集した一般人のエキストラ約1000人が参加した。ライブ前の高揚した空気感や事件後の混乱をリアルに表現するために、岩井監督からエキストラひとりひとりに細かい演技メモが配られた。
※ここでは映画版のあらすじを記述。
田園の広がる地方都市で暮らす中学生の蓮見雄一は、同級生の星野修介に置き引きや万引きなどの犯罪行為を強要され、鬱屈とした日々を送っていた。唯一の救いはカリスマ的な人気を持つ女性歌手、リリイ・シュシュの曲を聞くことであった。
雄一が星野と出会ったのは、中学校へ入学したばかりの頃だった。星野は何かと目立つ存在で注目されていた。剣道部へ入部した雄一は部活仲間となった星野に誘われ、彼の家へ宿泊した。その夜、彼の部屋に飾られていたポスターで、雄一はリリイ・シュシュを知る。 3年生が部活を引退し、以前とは段違いに厳しい練習に、雄一や星野ら1年生5人は嫌気が差す。5人は夏休みに沖縄へ自分たちだけで旅行する計画を立て、金銭面を解決するためにスリをはたらこうと都会へ向かう。5人は駐車場で、高級車の元に戻ってきた男に目をつけ様子を窺っていたが、都会の不良グループが先に男を取り囲みカツアゲをする。不良らは男の尻ポケットから札束を抜き取ったが、これを星野が奪い取り、5人はまんまと大金を手に入れる。
5人は沖縄へ訪れ、ツアーコンダクターの島袋や地元案内人のシーサーさん、さらに道中で何度も現れる高尾らと共に様々な場所を観光、海を泳ぎ、花火を打ち上げた。しかし、その間に星野は暗い海辺を懐中電灯で照らしてダツに襲われたり、溺れてしまったりと2度も命を落としかける。更に5人は自動車事故で高尾が車にはねられたばかりの現場に通りかかる。その後、星野はクルージング中に突然札束を海へ投げ捨てる。他の4人が無念の声を上げるが、星野は不敵な微笑みを浮かべていた。
新学期が始まり、雄一は星野が溺れた事件をクラスメイトに吹聴していた。夏休みの間に数人の生徒が見た目を派手にしてそのまま登校して来た中でも、犬伏という生徒は特別派手な髪型をしていた。星野は同級生の辻井に絡み始めた犬伏を注意するが、犬伏は星野を馬鹿にし、別の同級生である飯田にプロレス技を仕掛けようとした。その直後、星野は犬伏に襲いかかり気絶させ、彼の髪をカッターナイフで切り取った。星野はざわめく野次馬を不思議そうに眺め、教室を去った。 その日を境に星野は変貌し、辻井と飯田、多田野とクリオネを従えて犬伏を登校拒否に追い込んだ。星野は部活動も参加せず、放課後にはスクラップ置き場で仲間たちとつるむようになった。雄一は、部活に来ないなら退部しろと言う先輩からの伝言を星野に伝えにきただけだったが、その日以降、雄一もまた星野のグループへ強制的に加えられ、犯罪行為を強要される。
リリイ・シュシュのニューアルバム「呼吸」が発売された。雄一はCDショップでこれを万引きしようとするが店員に見つかってしまう。店から学校へ連絡され引き取りに来た小山内は、その「呼吸」の代金を支払い雄一に渡す。後日、雄一の母は学校から呼び出され、息子の万引きを知らされることになる。
数日後、雄一は夜に星野から呼び出される。個人的な万引きの失敗を学校へチクリと決めつけた星野らによって雄一は暴行を受け、さらにマスターベーションを強要される。リュックサックに入れていた「呼吸」のCDは、星野によって割られてしまう。
雄一はリリイ・シュシュの絶大な信者となり、インターネット上でリリイ・シュシュの非公式ファンサイト「リリフィリア」を主宰し、「フィリア」の名で、様々な人物と交流する。その中で、「青猫」と名乗る人物に出会い、掲示板上で度々繋がるようになる。 対して現実は過酷だった。雄一は星野に命令され、同級生の津田詩織の尾行をしていた。津田は星野に弱みを握られ売春を強要されていた。その日は津田の売春の初仕事で、雄一は多田野とクリオネと共に津田を見張っていた。 雄一は多田野の命令で津田を家まで送った。津田はピンハネされた残りの金を分け前として渡されていたが、これを雄一に差し出す。雄一が星野からたかられているのを知っていたためだった。雄一は受け取ろうとするが、津田は金を地面へ叩きつけ、苛立ちを晴らすように雄一を蹴ったり鞄で叩いたり、路上の札を破れるまで踏みにじり、そして濁った川へと入っていった。津田は泥だらけで帰宅し、庭にあったホースで汚れてしまった体を洗う。雄一は門前で所在なく立ち尽くすことしかできなかった
学校では、校内合唱コンクールに向けてクラスごとに練習に励んでいた。雄一のクラスは投票によって選ばれた井沢がピアノ伴奏を、学級委員長の佐々木が指揮を、それ以外の生徒が合唱を担当した。しかし、井沢はイントロだけで何度も躓き、ついに伴奏を辞退してしまう。佐々木は代理として久野陽子を指名した。久野は放課後に音楽室でピアノを弾いていて、井沢や佐々木だけでなく生徒の多くが上手く弾けることを知っていた。しかし久野がピアノを弾こうとすると、女子生徒のボス的な存在である神崎ら数人が異議を唱えた。佐々木と神崎らは言い合いになり、神崎は「久野が伴奏をするなら歌わない」と言い切り、グループを引き連れて帰ってしまう。このせいでクラスの結束力も緩んで、練習にならなくなってしまう。佐々木は担任教師の小山内に相談するが、小山内は打開策を打ち出せず、事なかれを主張した。そこへ久野が割り込み、アレンジを変えた譜面を見せる。それは久野のピアノ演奏を拒否する神崎らに対する妥協案で、ピアノ伴奏を行わずアカペラに変えるというものだった。佐々木は練習をボイコットしていた神崎らに、久野のピアノ演奏を無くしたから合唱に参加してほしいと頼む。その場に居合わせた雄一も説得に協力させられた結果、神崎らは承諾する。合唱コンクールの本番、ステージ上で久野が音程合わせでピアノを叩くと神崎らは佐々木に詰め寄るが、チューニングが終わって立ち上がった久野を見て渋々と列へ戻る。クラスは猛練習の成果を発揮し、困難なアカペラ合唱で「翼をください」を披露した。雄一はピアノも弾かず、合唱の列にも入らず、ただ立ち尽くすのみの久野を見つめた。合唱終了後、神崎らは満足そうに喜んでいたが、佐々木からアレンジ変更をしたのが久野だと聞き、神崎は表情を引きつらせた。星野は、アリーナの席から久野を眺めていた。
数日後、雄一は帰り道で佐々木と一緒になった。佐々木は恋愛話を持ち出す。佐々木は雄一が久野を好いていると見透かし、対して自分は津田のことが好きだと告白する。佐々木は、雄一が以前津田と2人でいるのを目撃していたため、2人が恋仲だと誤解していたのだが、そうではないと知ると、津田に告白したいから彼女を呼び出してほしいと頼む。雄一は電話でこれを津田に伝える。その直後、星野からの電話がかかった。
雄一は、久野をある工場へ伴わせ、工場内で星野が待っていると送り出した。1人になった雄一の前に神崎が現れ、この工場は元は星野の親が経営していたが、去年の夏休みに会社が倒産し、家族も離散していることを告げる。工場内では、待ち構えていた星野のグループが、逃げ回る久野を追い回していた。久野はとうとう捕まり、強姦され、その様子を撮影される。それを窓外から覗き歓喜する神崎。雄一は助けに入ることもできずただ泣き出すのみであった。後日、久野は頭を丸坊主にして登校する。クラスはざわつき、津田は号泣、神埼でさえショックを隠せない様子だったが、久野は毅然とした態度でいた。
数日後、津田は売春相手が眠っている隙に財布を奪ってホテルから抜け出し、監視役の雄一と共にレストランにいた。雄一が、佐々木とはどうなったのか尋ねると、津田は断ったと答える。雄一は、佐々木なら津田を星野から救ってくれたかもしれないのに何故だと問い詰めるが、津田は、雄一が守ってくれればいいのに、と返す。帰り道で、津田は雄一が聴いていたリリイ・シュシュの音楽に興味を示した。津田は最新のアルバムを貸してほしいと雄一に頼むが、最新作の「呼吸」は、星野に割られてしまっており、またこのことを言い出せず、仕方なく前作「ジュエル」を貸す。別れ際、津田は「きっと大丈夫」と雄一を励ます。しかし、この後に津田は、鉄塔から飛び降りて自殺してしまう。
現実が行き詰るに連れ、雄一は「リリフィリア」で青猫と心を通わせる。渋谷でリリイ・シュシュのライブが開催されることが決まり、サイトの常連者はそれぞれ、目印として任意のものを持つ、或いは格好をすると書き込んでおり、青猫は青りんごを持っていくと書き込んでいた。雄一は青猫にライブで会おうと告げる。ライブ当日、会場前の列の中で雄一は星野を発見する。星野もまた雄一に気づき、雄一に近づく。星野は雄一のチケットを奪い取り、自身のものと見比べ、チケットを交換するよう詰め寄る。さらに、雄一にコーラを買ってくるように命令し、雄一は仕方なく列から離れる。その際に雄一は、星野から青りんごを手渡される。青りんごには、bluecat(青猫)のアカウント名を含むメールアドレスが書かれていた。雄一はコーラを購入して列へ戻り、遠くで手を掲げた星野を発見する。雄一もコーラを持った手を掲げるが、星野は手に持っていたチケットを丸め、人混みの中へ投げ捨てた。雄一は呆然と、星野が人混みに紛れるのを見送るだけだった。
ライブ中、雄一はずっと会場の外に立ち尽くしていた。やがてライブが終了し、退場してくる観客らの中に星野を発見する。星野は雄一から青りんごを回収し、誰かに話しかけられなかったか尋ねたが、雄一は誰もいなかったと答えた。腑に落ちない顔の星野が立ち去って少し離れた時、雄一は会場を指差して「リリイがいる!」と叫んだ。その言葉に大勢のファンが呼応し、リリイを見つけようと殺到した。雄一は人混みを掻き分け、星野の元へと辿り着き、星野の背後からナイフで一突きし、立ち去った。星野は群衆でごった返す中で倒れ、辺りはパニックになった。雄一は逃げた先で立ち止まり、青りんごに突き刺したナイフを見つめていた。
星野は死亡し、その件は「キャトル事件」と名づけられて話題となっていた。雄一は警察に捕まることもなく、日常へと戻っていた。雄一は慣れない手つきでドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を弾き、母に頼んで髪を染めた。久野は吹奏楽部の練習に参加してピアノを弾いていた。雄一は成績の低下について小山内から指導され、帰り際に久野を帰らせるように頼まれる。久野は吹奏楽部の生徒らが帰った後も1人残ってピアノを弾いており、雄一はその様子を背後からじっと見つめていた。
この作品ではタイトルでもあるリリイ・シュシュの歌が重要な役割を担っている。それを製作する上で、「リリイ・シュシュというアーティストを“ねつ造”することには意味を見出せなかった」、「リリイ・シュシュによって言葉を与えられたSalyuの声の響き中から、その形を探していった」と小林武史は語っている[3]。そうやって製作されたリリイ・シュシュの楽曲は、小林武史自身によって「スピリチュアル・ポップ」と形容された。
インターネット小説では小林武史によるインスト曲と、リリイ・シュシュの楽曲のみが使用されていたが、映画ではドビュッシーのピアノ曲も多く使用されている。 これは作品のキーワードである「田園」と「電波」の象徴をそれぞれ「ドビュッシー」と「リリイ・シュシュ」に当てはめたものである。
「リリイ・シュシュ」と言う名前は、ドビュッシーの最初の妻 (Rosalie Texier) の愛称である'Lily'と、2番目の妻との間に出来た娘 (Claude-Emma) の愛称'Chou-Chou'から付けられており、これは作品内で語られるリリイ・シュシュの生い立ちが関係している。
映画の中で久野陽子役の伊藤歩がドビュッシーの『アラベスク 第1番』を演奏しているが、使用されている音源は当時14歳の牧野由依が弾いたものである。しかし岩井監督が実際に弾いているように見えたほうがよいと考えたため、伊藤はピアノの猛特訓をして指を撮影されても違和感のないほどに上達した。