リンヘニクス (学名 Linhenykus 、「臨河の爪」の意)は、中華人民共和国 内モンゴル自治区 バヤンノール市 から化石が産出した、後期白亜紀 に生息したアルヴァレスサウルス科 の恐竜 の属 。Linhenykus monodactylus が知られており、属名は発見地である臨河に由来し、種小名は前肢の指が1本に退化して見えることから「1つだけの指」を意味する[ 1] 。ウランスーハイ層 のカンパニアン 階から化石 が発見されており、砂丘 とオアシス の広がる半砂漠気候の環境においてオヴィラプトル科 (英語版 ) のウラテロン やトロオドン科 のリンヘヴェナトル (英語版 ) と共存した[ 2] 。
復元
リンヘニクスは小型の恐竜であった。グレゴリー・ポール によれば全長は約50センチメートル、体重は約500グラムに達する[ 2] 。大腿骨 長は約7センチメートルである[ 3] 。
アルヴァレスサウルス上科の特徴は短い前肢と、その先端で大型化した第二指である。かつてアルヴァレスサウルス科は左右それぞれの前肢に1本しか指を持たないと考えられていたが、大部分の種は第三指と第四指を持つことが新しい化石証拠から示された。その中で、リンヘニクスは第二指しか持たないことが判明した最初のアルヴァレスサウルス科恐竜である[ 3] 。短縮した第三中手骨 こそ存在するものの、第三指の指骨は完全に喪失している。第四中手骨はホロタイプに保存されていないが、第三指が指骨を欠いていることから、本属において第四中手骨は完全に存在しない可能性がある。本属の分岐分析からは、アルヴァレスサウルス上科において最も指骨が減少しているにも拘わらず、リンヘニクスの大型化した指骨は派生的な属種ほど大きくはなくまた頑強でもないことが示唆されている[ 4] 。
他のアルヴァレスサウルス科恐竜と同様に、リンヘニクスが昆虫 食性であった可能性を指摘する研究者も居る。彼らの間では、現生のアリクイ のように、本属が鉤爪を用いてアリ を掘り出したことが想定されている[ 5] 。
リンヘニクスの化石は、中華人民共和国の内モンゴル自治区において Jonah N. Choiniere と Michael Pittman が上部白亜系のウランスーハイ層(烏蘭蘇海層)から 発見した。層序学的研究からは、当該の層は約7500万年前から約7100万年前にかけてのカンパニアン 階とマーストリヒチアン 階に相当することが示唆されている。リンヘニクスは部分的骨格であるホロタイプ標本 IVPP V17608 が知られており、頸椎 ・胴椎 ・仙椎 ・尾椎 ・前肢・後肢・骨盤 ・足の骨が保存されている[ 6] 。本属は徐星 らによって2011年に初めて記載された[ 3] 。
ギャレス・ダイクとダレン・ナイシュ はリンヘニクスがパルヴィカーソル のジュニアシノニムである可能性を指摘したが[ 7] 、この解釈は徐星らが否定した[ 8] 。その後のアルヴァレスサウルス上科の研究においてもこの見解は受容されていない[ 9] 。
カンパニアン期の乾燥した環境で生きるリンヘニクス
以下のクラドグラム は Makovicky, Apesteguía and Gianechini (2012) に基づき、アルヴァレスサウルス科の系統関係を示す[ 9] 。
^ 松田眞由美『語源が分かる 恐竜学名辞典』小林快次 、藤原慎一(監修)、北隆館 、2017年1月20日、338-339頁。ISBN 978-4-8326-0734-7 。
^ a b グレゴリー・ポール 著、東洋一 、今井拓哉、河部壮一郎、柴田正輝、関谷透、服部創紀 訳『グレゴリー・ポール恐竜事典 原著第2版』共立出版 、2020年8月30日、147頁。ISBN 978-4-320-04738-9 。
^ a b c Xu, Xing; Sullivan, Corwin; Pittman, Michael; Choiniere, Jonah N.; Hone, David W.E.; Upchurch, Paul; Tan, Qingwei; Xiao, Dong et al. (2011). “A monodactyl nonavian dinosaur and the complex evolution of the alvarezsauroid hand” . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108 (6): 2338–2342. Bibcode : 2011PNAS..108.2338X . doi :10.1073/pnas.1011052108 . PMC 3038769 . PMID 21262806 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3038769/ .
^ Suzuki, S; Chiappe, L.; Dyke, G.; Watabe, M.; Barsbold, R.; Tsogtbaatar, K. (2002). “A new specimen of Shuvuuia deserti Chiappe et al., 1998, from the Mongolian Late Cretaceous with a discussion of the relationships of alvarezsaurids to other theropod dinosaurs”. Contributions in Science 494 : 1–18. doi :10.5962/p.226791 .
^ “Linhenykus: A weird, one-fingered dinosaur ”. Smithsonianmag.com . 26 May 2022 閲覧。
^ Hone, David W.E.; Choiniere, Jonah N.; Tan, Qingwei; Xu, Xing (2013). “An articulated pes from a small parvicursorine alvarezsauroid dinosaur from Inner Mongolia, China”. Acta Palaeontologica Polonica 58 (3): 453–458. doi :10.4202/app.2011.0127 .
^ Dyke, G. J.; Naish, D. (2011). “What about European alvarezsauroids?” . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108 (22): E147. Bibcode : 2011PNAS..108E.147D . doi :10.1073/pnas.1101602108 . PMC 3107280 . PMID 21540333 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3107280/ .
^ Xu, X. (2011). “Reply to Dyke and Naish: European alvarezsauroids do not change the picture” . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108 (22): E148. Bibcode : 2011PNAS..108E.148X . doi :10.1073/pnas.1104155108 . PMC 3107297 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3107297/ .
^ a b Makovicky, P. J.; Apesteguía, S. N.; Gianechini, F. A. (2012). “A new coelurosaurian theropod from the La Buitrera fossil locality of Río Negro, Argentina”. Fieldiana Life and Earth Sciences 5 : 90–98. doi :10.3158/2158-5520-5.1.90 .