ロバート・ウォルドーフ・ラブレス(Robert Waldorf Loveless、1929年1月2日 - 2010年9月2日)はアメリカ合衆国のナイフメーカーである。一般にはボブ・ラブレスまたはR.W.ラブレスとして知られている。
アバクロンビー&フィッチの顧客であったアーネスト・ヘミングウェイに高く評価され3本のナイフを最後のアフリカ旅行に持っていった(ヘミングウェイはそれらのナイフを現地の案内人や知り合った子供に与えている)ほか、ウィリアム・ホールデンは直接ラブレスの元を訪れて発注した。
現在は最後のナイフ制作のパートナーであったジム・メリットが遺族との協議の後、ロゴマークを変更してバックオーダー分のナイフを制作している。
2度目のアバクロンビー&フィッチからの注文に際して冶金学の本を読み漁ったが、マイスターから教えを受けたことは無い独学だという。ただジェサブ・カンパニーの鋼材カタログを手に入れ調べた際に、139Bの耐摩耗性や耐衝撃性の高さにひらめきを得て、これがハンティングナイフの素材に適していると考え、採用した。
ナイフを作る上で、いかにデザインするかを最重要視している。その上で、「日本人は視覚に訴えることが上手」と評しており、日本製品に学ぶことは多いとみなしている。また常に良いナイフを作るために学ぶことを重要視していた。
「自分のナイフ作りに隠すことは何も無い」として、教えを請われた時には詳細に制作方法を教えていた。それは工業用の鋼材よりはどうしても使用量が少なく、小ロット生産になって高価になってしまう刃物用鋼材を、作り方を普及させて多くの人がその鋼材を注文するようにすることで鋼材の必要量を増やして生産ロット数を上げ、購入費用を安価にするという目的もあった。
「良いナイフ」とは直感的に「持つといい気持ちがするもの」としており、心理学者が言うところの筋肉運動知覚(Kinesthetic)だと表現している。見た目がよく、形や色も魅力的なナイフはよく売れるという。なお自身が作ったナイフはすべて1-2時間は試し切りをしてみるとのことで、専ら熱処理の段階で問題の出たナイフはスクラップにしているが、過去には「ひどい材質の鋼材」をつかまされたこともあり、約400ポンドはスクラップにしたこともあるという。
エッジ以外に角は作らないこととしており、握りやすいようにハンドルには丸みを持たせている。「制作したナイフを見てほしい」と見せに来た日本人に対し、「よく出来ていて、これは私自身でも作れないが、残念なことにハンドルに角がある」と自身の腕にその角をこすりつけて血を滲ませてレクチャーしたこともあった。
ナイフのハンドル材を固定するボルトには皿ビスとワッシャー、ナットを組合せたものでラブレスが発案し、その名を冠した「ラブレスボルト」が存在する。 また、ウエットフォーム(革を濡らして型をつけシースを作る方法)でポーチ型シースを作り出した。
自身のナイフ制作以外でもカスタムナイフ業界の親交・技術の交換と相互公開、知識の普及を目的としたザ・ナイフメーカーズ・ギルドを発足させ、日本にも同様にジャパンナイフギルドの結成を提唱し、初代会長に就任している。
自身の製作するナイフについては「実用品」であることを重視している。一方、有名人にも顧客が多い「ラブレスのナイフ」(ブランドとしての)だが、彼自身はそのことについて「あまり触れたくない」とすら述べており、むしろアウトドアで実際に使ってくれるユーザーに売りたいとしている。その根底には、ナイフこそが人間が考え出した最高の道具だという考えもあり、誰かの役に立つナイフが作れたという達成感に「病み付きに」なっているともいい、そのためなら自身が無名であろうとも、きっとナイフを作り続けるだろうという。