ヴィルヘルム・ハイネ(Peter Bernhard Wilhelm Heine、ペーター・ベルンハルト・ヴィルヘルム・ハイネ、1827年1月30日 - 1885年10月5日)は、ドイツ系アメリカ人の画家、旅行家、著述家。アメリカ合衆国の軍人、外交官としても活動した[1]。名については英語式にウィリアム・ハイネ(William Heine)[2] とも呼ばれる。
考古学者で外交官のエフライム・ジョージ・スクワイア (E. G. Squier) の知遇を得たハイネは、スクワイアが中央アメリカに領事として赴任するにあたって、画家として同行するよう誘われた。ハイネはスクワイヤに先立って現地に入り、現地の動植物を収集・記録し、将来の出版にそなえて数冊のノートを編纂した。スクワイアが赴任するまで、ハイネは領事としての役割を果たしており、中米諸国と米国との通商交渉にあたり、ワシントンに報告している。この時の記録は、1853年に Wanderbilder aus Centralamerika と題されてワシントンで出版された。
1853年から1854年にかけ、ハイネは艦隊とともに(日本ではペリーの「来航」と「再来航」と認識される旅に従って)沖縄、小笠原諸島、横浜、下田、函館を訪れ、彼が訪れた場所や出会った人々をスケッチした。ハイネのスケッチは約400枚あり、これは木版画や石版画にされてペリーの公式報告書に添えられた[8]。また、フランシス・ホークス (Francis L. Hawks) が編纂した『ペリー提督日本遠征記』にもその一部が挿絵として用いられた[8]。ハイネのスケッチは、ブラウンの銀板写真とともに、アメリカによる日本遠征の視覚的史料となっており、多数の西洋人が訪れる前の日本の記録として重要であり続けている。
艦隊とともに帰国したハイネは、何冊かの書籍を出版した。1856年にニューヨークで刊行した『日本遠征図集』 Graphic Scenes of the Japan Expedition は、ペリーの公式報告書に含まれた400枚のスケッチである。また、艦内で記していた手記[4] や郷里に送った手紙[9][10] とスケッチをもとに[4]、ドイツに原稿を送って[4]『世界周航日本への旅』 Reiss um die Welt nach Japan をライプチヒで刊行した[8]。ハイネはこの著書の中で日本人を「活気に満ちた知性豊かな民族」と好意的に描き、「忠実」「勤勉」という表現を多用している[4]。この著書は画集ではなく文章を中心としたもの[8] であるが非常に成功し、まもなくフランス語とオランダ語に翻訳された。江戸幕府もオランダ語版を入手して蕃書調所で翻訳している。ただし、この書籍については、シーボルトが「とりとめもなく根拠がない」として[1] 厳しい批判をおこなっている[8]。
"Shimoda as seen from the American Grave Yard" (lithograph, 1856). 外国人墓地(玉泉寺)から見た下田
"Napha from Bamboo Village" (lithograph, 1856). 那覇
"View of Hakodate from Snow Peak" (lithograph, 1856). 箱館
1864年、彼はその代表作である、東洋旅行についての大著 Eine Weltreise um die nördliche Hemisphare in Verbindung mit der Ostasiatischen Expedition in den Jahren 1860 und 1861 (ライプツィヒ、2巻本)を出版した。その後彼は大佐として北軍に復帰した。1865年、彼は准将に進んだが、まもなく再び不従順の罪に問われた。ハイネは、短期間ながらパリとリバプールで米国領事館の事務官(奥正敬によれば領事[1])として勤務している。
1871年、ドイツ帝国が成立すると、ハイネは米国外交官の職を辞し、ドレスデンに帰郷した[1]。ドレスデンで彼は Japan, Beiträge zur Kenntnis des Landes und seiner Bewohner(ベルリン、1873-80年。『日本-土地と住民研究』[1]) を執筆した。しかしハイネの体調は思わしくなく、この本が日本についての最後の書籍となった[1]。
原題の完全なタイトルはReise um die Erde nach Japan an Bord der Expeditions-Escadron unter Com. Perry den Jahren 1853, 54, und 55, unternommen im Auftrage der Regierung der Vereinigten Staaten. 『世界周航日本への旅』[15]、『世界周航 日本への旅:ペリー提督の遠征艦隊に搭乗して』[8] と訳される。このほか日本語では『日本航海記』[3] と紹介される例がある。江戸幕府はこの本のオランダ語版を入手して蕃書調所で翻訳を行い、『日本行紀』[9](あるいは『日本行記』[10])としている(『大日本維新史料』第2編の5所収)。
Wanderbilder aus Central-Amerika: Skizzen eines deutschen Malers (Leipzig: Hermann Costenoble, 1857) OCLC245831358
Eine Weltreise um die nördliche Hemisphare in Verbindung mit der Ostasiatischen Expedition in den Jahren 1860 und 1861 (Leipzig: F.A. Brockhaus, 1864[17]) OCLC 63836384
Treasury of Travel and Adventure in North and South America, Europe, Asia and Africa: A Book for Young and Old. (New York: D. Appleton and Company, 1865) OCLC 48859643
Japan, Beiträge zur Kenntnis des Landes und seiner Bewohner (Berlin: P. Bette, 1873) OCLC 82741141
Sebastian Dobson: Getrennte Ansichten: Wilhelm Heine und Albert Berg in Japan. / Split Visions: Wilhelm Heine and Albert Berg in Japan. In: Sebastian Dobson & Sven Saaler (Hg./Eds.): Unter den Augen des Preußen-Adlers. Lithographien, Zeichnungen und Photographien der Teilnehmer der Eulenburg-Expedition in Japan, 1860-61./ Under Eagle Eyes. Lithographs, Drawings & Photographs from the Prussian Expedition to Japan, 1860-61. München 2012 (2., durchgesehene Auflage), S. 125-191.
Sebastian Dobson: Unbeabsichtigte Folgen: Photographie und die Eulenburg-Expedition. / Unintended Consequences: Photography and the Prussian East Asian Expedition. In: Ebda., S. 255-315.
Hirner, Andrea: Wilhelm Heine. Ein weltreisender Maler zwischen Dresden, Japan und Amerika. Radebeul 2009.
Andrea Hirner: "Das Leben und die Reisen des Wilhelm Heine." In: Streifzüge durchs alte Japan. Philipp Franz von Siebold, Wilhelm Heine. Herausgegeben von Markus Mergenthaler im Auftrag des Knauf-Museums Iphofen. Dettelbach 2013, S. 74-99.
Bruno J. Richtsfeld: Wilhelm Heines Japan-Gemälde im Staatlichen Museum für Völkerkunde München. In: Münchner Beiträge zur Völkerkunde, vol. 13, 2009, p. 211 - 240.
Bruno J. Richtsfeld: "Impressionen aus Japan. Die Wilhelm Heine zugeschriebenen Japan-Gemälde im Staatlichen Museum für Völkerkunde München." In: Streifzüge durchs alte Japan. Philipp Franz von Siebold, Wilhelm Heine. Herausgegeben von Markus Mergenthaler im Auftrag des Knauf-Museums Iphofen. Dettelbach 2013, S. 100-117.
^Sabin, Joseph. (1875). A Dictionary of Books Relating to America, from Its Discovery to the Present Time, p. 197.
^Allibone, Samuel Austin. (1882).A Critical Dictionary of English Literature and British and American Authors, Living and Deceased, from the Earliest Account to the Latter Half of the Nineteenth Century, p. 1567.