『ヴェーゼンドンク歌曲集』(ドイツ語: Wesendonck Lieder)は、リヒャルト・ワーグナーが作曲した連作歌曲。楽劇『トリスタンとイゾルデ』を予告する作品として重要である。
当時のパトロンオットー・ヴェーゼンドンク(1815年 - 1896年)夫人、マティルデ・ヴェーゼンドンクの詩に曲付けされている。オットーの庇護下にある中で、ワーグナーとマティルデは情事を重ねており、それが結果的に『トリスタン』の濃密なロマンティシズムに寄与した、と伝えられている。マティルデの詩は、ヴィルヘルム・ミュラー(シューベルトのお気に入りの詩人)に影響された、思い焦がれたような受苦的な文体にのっとっている。
次の5曲から構成されている。
最後に完成された2曲は、後に『トリスタン』に使われることになった楽想がいくつか登場する。「夢」は『トリスタン』第2幕の二重唱に、「温室にて」は『トリスタン』第3幕の前奏曲に含まれている。この2曲には、「トリスタンとイゾルデのための習作(Studie zu Tristan und Isolde)」という副題が付いている。
当初、ワーグナーは女声とピアノのために本作品を作曲したが、この後『夢』のみ管弦楽伴奏版を作成し、マティルデの誕生日である1857年12月23日に、室内オーケストラによって、窓越しに聞こえるように演奏された。
曲集全体の公開初演は、1862年7月30日にマインツ近郊にて、「女声のための5つの歌曲」と題されて行われた。
『夢』を除く残りの4曲は、後にワーグナー指揮者として名を馳せたフェリックス・モットルにより管弦楽化され、現在全曲を演奏する際はこの版が使用されている。また、1976年にハンス・ヴェルナー・ヘンツェも、全曲を室内オーケストラ伴奏用に新しく編曲したが、全曲を通じ、オリジナルより短3度低く移調されている。
メゾ・ソプラノの藤村実穂子 は、N響 1971回定期公演Aプログラム(2022年12月3・4日、NHKホール、N響首席指揮者ファビオ・ルイージ指揮)においてこの曲を歌ったが、NHK Eテレ2023年 2月5日21:00-のクラシック音楽館で放映された際、藤村自身による邦訳がテロップで映し出された。