七イマーム派 (アラビア語 : سبعية , ラテン文字転写 : sabʿiyya , 英語 : Sevener )は、7人のイマーム の存在を認めるイスラーム教 シーア派 のセクト を指す言葉である[ 1] 。ただし、「十二イマーム派 」(ithnā ʿashariyya , twelver )という言葉とは異なり、同時代史料にみられる用語ではない[ 1] 。近代以後の学者により「十二イマーム派」という言葉のなりたちに倣って造語されたもののようである[ 1] 。
「七イマーム派」は、イスマーイール派 の別名として使用される[ 1] [ 2] 。しかしながら、現代も存続しているイスマーイール派(南アジアなどにダーウーディー・ボホラ (英語版 ) 、ホージャ といった集団がある)はイマームを7人に限定しない[ 1] [ 3] 。ファーティマ朝 イマームなど歴史上のイスマーイール派イマームも7人より多い[ 3] 。イスマーイール派の別名として「七イマーム派」なる用語を使用するのは不適切である[ 1] [ 2] 。
シーア派セクトの研究家ハルム (ロシア語版 ) によると、イスマーイール派の長い歴史のなかの、非常に早い段階の一時期に限定するならば、同派を「七イマーム派」と呼ぶことが可能であるという[ 1] 。ジャアファル・サーディク が亡くなったとき、その信奉者のコミュニティはその死を信じない者、その息子たちの誰かにイマーマが受け継がれたと考える者などに分裂した[ 4] 。そのうちの一派、父親より先に亡くなったイスマーイールのイマーム職への指名が有効であると考えた派がイスマーイール派(の源流)である[ 4] 。同派は、ハサン・ビン・アリー・ビン・アビー・ターリブ から始まり、ムハンマド・ビン・イスマーイール・ビン・ジャアファル・サーディク (英語版 ) で終わる7人のイマームの継承ラインこそが正統であり、ムハンマドがマフディー として帰還することを信じるようになった[ 1] 。
このような政治的主張、宗教的信条の一体性は、899年にサラミーヤ の教宣組織の指導者ウバイドゥッラー が、自らがマフディーでありイマームであることを主張したことにより、損なわれる[ 1] 。彼の主張を拒絶して従来の教義を墨守した信者集団の一部は、カルマト派 として分派した[ 1] [ 5] 。その一方で、主張を受け容れた者たちは彼の子孫たち をさらに新たなイマームとして奉じていくことになり[ 3] [ 6] 、イマーム職の継承ラインは7番目のイマームを超えてさらに続いていった[ 1] 。
前出のハルムは、「七イマーム派」という用語は、不正確であり不自然であるので、一切使用するべきではないとしている[ 1] 。
^ a b c d e f g h i j k l Halm, H. (1995). "Sabʿiyya". In Bosworth, C. E. [in 英語] ; van Donzel, E. [in 英語] ; Heinrichs, W. P. [in 英語] ; Lecomte, G. [in 英語] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume VIII: Ned–Sam . Leiden: E. J. Brill. p. 683r. ISBN 90-04-09834-8 。
^ a b 中村廣治郎『イスラム教入門』(岩波書店、1998年)pp. 152-153
^ a b c Daftary, Farhad, (2020): The Ismaili Imams , I.B. Tauris, ISBN 978-1-78831-317-9
^ a b Kohlberg, E. (1995). "al-Rāfiḍa". In Bosworth, C. E. [in 英語] ; van Donzel, E. [in 英語] ; Heinrichs, W. P. [in 英語] ; Lecomte, G. [in 英語] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume VIII: Ned–Sam . Leiden: E. J. Brill. pp. 386–389. ISBN 90-04-09834-8 。
^ Madelung, Wilferd (1978). "Ḳarmaṭī". In van Donzel, E. [in 英語] ; Lewis, B. ; Pellat, Ch. [in 英語] ; Bosworth, C. E. [in 英語] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume IV: Iran–Kha . Leiden: E. J. Brill. pp. 660–665.
^ Canard, Marius (1965). "Fāṭimids". In Lewis, B. ; Pellat, Ch. [in 英語] ; Schacht, J. [in 英語] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume II: C–G . Leiden: E. J. Brill. pp. 850–862.