卵子凍結保存(らんしとうけつほぞん、英語: oocyte cryopreservation / egg freezing)とは、体外受精を行い子宮に戻す目的で、未受精卵を凍結保存する技術のこと[1]。
従来は、若年女性がん患者が化学療法や放射線療法を受ける前に卵子を体外に取り出すことによって、治療による生殖細胞への影響を回避する方法として試みられるものであったが[1]、近年パートナーがいない女性が将来の妊娠に備えて自分の卵子を凍結保存する事例が増えている[2]。採卵した卵子はマイナス196℃で凍結保存され、妊娠が可能・希望する時期に解凍・体外受精を行い、子宮に戻される[3]。ただ、体外受精での出産率は30代から低下を始め、36歳ごろから加速し、36歳で16.8%、40歳で8.1%、42歳で5%、45歳だと1%以下と年齢によって低下していくため、卵子の凍結は年齢により低下する妊孕力を完全に保つものではない[3][4][5]。卵子だけでなく、子宮や血管の老化も妊孕力に影響を与えるためである[6]。実際、ニューヨーク・タイムズの報道では、2014年時点で入手できる中で最も包括的なデータでは、最新の瞬間冷凍プロセスを使った場合、新生児出生の失敗率は30歳女性で77%、40歳女性で91%であり、2011年の1年間で38歳以上の女性が冷凍卵子で出産した新生児は世界全体でも推定10人程度となっている[7]。
2016年2月2日、日本国内で初とみられる健康女性が凍結保存していた卵子を体外受精し、女児を出産したケースが報告された[8][9][10][11][12]。女性は44歳の看護師で独身時代の41歳の時にオーク住吉産婦人科(大阪市)で卵子を8個凍結し、その後42歳で結婚、保存していた卵子を同院で体外受精し妊娠、2015年5月に女児を出産した[9][11]。
2020年1月、スコットランド・エジンバラで開催された学術集会でNewcastle Fertility Centreの研究者が過去15年間わたる「ヒト受精・発生学委員会」のデータを解析し、卵子凍結での妊娠成功率は18%と発表した[13]。この報告を受けて英国不妊学会は「卵子凍結をしても『将来の出産が保証されるわけではない』ことを知っておくべき」と警告している[13]。
などがガイドラインで上がっている。 ただ、上述のガイドラインでも示している通り、社会的要因による卵子凍結は推奨されるものではなく、「リスクを最小にすることを考えるなら妊娠適齢期は20~34歳」であり、性教育については「こうした全ての正しい事実を教えることが必要」というものが医学的なスタンスである[16]。
2015年2月8日、日本産科婦人科学会の倫理委員会は「健康な女性を対象とする卵子凍結保存は推奨しない」との見解を示している[17]。
2016年2月2日、日本産科婦人科学会の苛原稔常務理事は、日本で初とみられる健康女性の凍結卵子を使用した出産事例に対し「凍結しても、本人の加齢による妊娠率の低下やリスクもある。医療機関としっかり話し合い、よく考えてほしい」とのコメントを出した[9]。
日本においては、NHKクローズアップ現代の「卵子老化の衝撃」をはじめとする報道が、2012年ごろより盛んにされるようになり、社会的にも卵子の老化、卵子凍結保存が認知されてきた[5][6]。「AERA」2013年8月5日号(2013年7月29日発売)では就活、婚活、妊活に続く言葉として『卵活』という言葉が登場している。岡山大学の研究グループが2013年に行った調査では、社会的理由での卵子凍結保存に否定的な人は70%を超える結果となった[2]。35歳~44歳でパートナーがいない女性の回答では肯定感を示した人が43.6%と高い数値となった。一方で癌治療などの医学的理由での卵子凍結保存に対しては肯定的な人の割合は全体の79.8%となり社会的理由と異なり大多数の人が肯定しているという結果となった[2]。2013年11月に日本生殖学会がガイドラインを制定して以降、社会的な認知度は高まったが、以前より卵子凍結保存を行っていた有名医院では「危機感を覚えてやってくるのは結局40代以上の人が多い」、「結局凍結した卵子を使う人が少ない」、「年齢や保存の期限により廃棄しようとすると、トラブルが多い」という理由から中止する医院も増えている[18]。
FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグはTED「何故女性のリーダーは少ないのか」のなかで、『女性は子どもを持つことを考えたその瞬間から、その子どものためにゆとりを確保することを考えはじめます。「その他のことと子どもを持つことを、どう両立すればいいの?」と。そしてその瞬間から、彼女たちは積極的に手を挙げて出世を望んだり、新しいプロジェクトに取りかかったり、「私にやらせて下さい」と言わなくなるのです』と述べ、Facebookは2014年1月より女性社員による卵子の冷凍保存に対して最大2万ドルまで資金援助する福利厚生策を導入している[19]。
NHKのクローズアップ現代では2012年2月4日に「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」、2016年10月26日に「“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~」と2度特集を組み精力的に報道を行っている[20][21]。
2020年8月時点で、パリス・ヒルトンが「サンデー・タイムズ」のインタビューで、レベル・ウィルソンがオーストラリアのトーク番組「Kyle and Jackie O Show」で、リタ・オラがオーストラリアのニュース番組「Sunrise Newsfeed」で卵子の凍結保存を行っていることを公表している[22]。その他、オリヴィア・マン、コートニー・カーダシアンが卵子の凍結を公表している[22]。