2019年時点では太陽系内にも太陽系外にも孫衛星の存在は確認されておらず、仮説上の天体である。多くの場合、衛星が公転している惑星の潮汐力などの影響によって孫衛星の軌道は不安定になるため、一時的にしか存在出来ないと考えられる[4]。孫衛星が長期間安定に存在するためには、衛星が 1000 km 級のサイズで大きな質量を持つ、衛星が惑星から比較的離れた軌道を公転している、孫衛星の質量が小さい(衛星質量の10万分の1以下)、孫衛星の軌道が衛星から遠すぎず近すぎもしない距離にある、という複数の条件を満たしている必要がある[4][9]。
孫衛星の長期的な軌道安定性には、孫衛星の軌道だけではなく、孫衛星の質量、主星である衛星の質量や惑星との距離も重要となる。惑星からの潮汐力の影響を考慮した孫衛星の存在可能性の研究は、1973年に Mark J. Reid によって行われている[9]。Reid は月の周りを周回する孫衛星を想定した計算を行い、孫衛星が長期的に安定に存在するためには、孫衛星の質量は衛星の10万分の1以下である必要があると結論付けた[9]。そのため孫衛星は、太陽系内に存在していたとしても最大で 10 km 程度の大きさのもののみが安定であると考えられる[4]。また、孫衛星の軌道離心率が小さく順行軌道であり、なおかつ孫衛星の質量が衛星に対して小さい場合は、衛星のヒル半径のおよそ 50% 以内が長期的に安定な範囲となる[21]。衛星のヒル半径は、衛星の質量が大きく、惑星から離れているほど大きくなる。そのため孫衛星が安定に存在するためには、衛星自身が大きく、さらに惑星から離れた距離を公転している必要がある[4]。さらに孫衛星が衛星に近すぎる場合、衛星の地殻内の局所的な質量分布の影響で軌道が不安定化される場合がある[22]。そのため、衛星に近すぎず、かつヒル半径の 50% 程度以内の遠すぎない軌道を持っている必要がある[4]。
上記のような制約により、衛星の質量が小さすぎたり、衛星の軌道が惑星に近すぎたりする場合は孫衛星は安定に存在できなくなる。そのため孫衛星が存在できる条件は非常に厳しいものになり、太陽系内の衛星のほとんどは長期的に孫衛星を持つことが出来ない[4]。ただし数少ない例外として孫衛星が安定に存在できる条件を満たす衛星もあり、木星の衛星カリスト、土星の衛星タイタンとイアペトゥス、そして地球の衛星である月は、孫衛星が 10 km 程度と小さく衛星から程良い軌道長半径で公転している場合、安定に存在する余地があることが解析的に示されている[4]。これらの衛星は共通して、直径が 1000 km 程度あり質量が比較的大きく、惑星から離れた位置を公転しているという特徴がある。その他の大部分の規則衛星は惑星に近すぎるため、孫衛星を安定に保持できない。例えばカリスト以外の木星のガリレオ衛星、タイタンより内側の土星の規則衛星、天王星と海王星の全ての規則衛星や大型衛星は、惑星に近すぎるため孫衛星を長期間持つことが出来ない[4]。
孫衛星の存在自体が確認されておらず、存在可能な条件も非常に限られていること、また仮に存在しても小さい天体でしかないと予想されていることから、孫衛星の衛星(subsubmoon[4])についての考察はほとんど行われていない。長期的に安定に存在可能な質量比の類推からは、太陽系内での孫衛星の最大サイズは 10 km 程度であるため、孫衛星の衛星の可能な最大サイズはさらに小さい 1 km 未満と推測されている[4]。
また、ESA が計画している木星探査計画である JUICE では、探査機は最終的にガニメデを周回する軌道に投入することとされている[30]。こちらはフォボス計画や MMX のような疑似周回軌道ではなく、ガニメデの重力圏内にあり重力的に束縛された周回軌道に投入される。そのため JUICE はガニメデの周囲を公転する人工の孫衛星となる予定である。
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