アメリカ合衆国において、州警察(しゅうけいさつ、英語:state police)は各州に特有の警察組織であり、州の全土にわたって法執行活動や刑事捜査を行う権限を有する。州警察官 (state trooper) と呼ばれる州警察の警察官たちは、一般に、州道や州間高速道路における交通法規の執行、州会議事堂の安全の確保、州知事の警護、州内の独自の警察学校を運営するには規模が小さすぎる警察の新人警察官の養成の代行、技術的・科学的サービスの提供といった、郡の保安官の管轄に属さない機能を担う(バーモント州は注意すべき例外である)。州全土にわたって完全な警察権が与えられている州では、重大な、または複雑な事件について州内の警察を支援し、管轄地域を越えて編成されたタスクフォースの活動を調整する。
全体的な傾向として、これらの組織を州レベルの公安省の傘下に移す動きがある。加えて、それらは州運輸省の下のハイウェイ・パトロールや天然資源省の下の海上警邏隊のように州の別の省に所属する場合もある。「州警察」の用語を用いているのは32州である。49州が州警察組織またはそれに相当する組織を保有しており、州全土に管轄を有するハワイ州公安省保安官部を擁するハワイ州が唯一の例外である。
1823年にスティーブン・オースティンによって最初に創設されたテキサス・レンジャーは、アメリカ合衆国における州の法執行機関の最初期の形態である。当初のレンジャー隊は、入植者をインディアンの攻撃から保護する任務を帯びた10人の男たちであった。この時代のレンジャーたちは、今日では法執行官とみなされているが、バッジを着用することは滅多になく、ボランティア以上のものではなかった。当時のメキシコのコアウイラ・イ・テハス州ではメキシコ軍が正式に法執行を担っていた。レンジャー隊はのちにアメリカ=メキシコ国境における準軍事組織として活動し、テキサス革命、米墨戦争、南北戦争を含む複数の武力紛争に従軍した。彼らは「ワイルド・ウエスト」時代の終焉まで、基礎的法執行と辺境防備の役割を果たした。1900年代初頭には刑事捜査機関に改編された。テキサス・レンジャーの歴史とレガシーは、大衆文化での数多の描写を生み出した。テキサス・レンジャーの「いつでもホシを挙げる」("always [getting] their man") という市井でのイメージも、レンジャー隊を数ある法執行機関の中でも尊敬される、一つのポストに採用されるのは応募者100人に1人未満であるほど競争率の高い組織とした。
1865年、マサチューセッツ州は州内の売春行為を取り締まるため、州コンスタブル (state constable) を設置し、1879年には彼らは地区警察 (district police) という州の刑事警察となった[1]。以降、ニューメキシコ州とアリゾナ州がテキサス州の制度を、コネチカット州がマサチューセッツ州の制度を模倣した。
最初の近代的州警察である[1]ペンシルベニア州警察は、ペンシルベニアでの1902年炭鉱ストライキ (Coal strike of 1902) の後に登場した。1905年5月2日に法案が成立した際は、鉱山主たちが牛耳る議会を穏やかに通過したため論争は起こらなかったが、この新しい警察のスト破りの役割は労働組合から猛反対を招き、彼らはツァーリの下の反動的なロシアのコサックになぞらえられた[2]。自身もかつてニューヨーク市警察委員会委員長であったセオドア・ルーズベルト大統領は、ペンシルベニア州警察は私有財産への労働組合の攻撃に対抗するために用いられた「悪名高い」民間企業立の警察 (Company police) である、炭鉄警察 (Coal and Iron Police) と交代するためのものであると主張した:
労働者階級が既得権益との死闘に囚われているとき、州は自らの不偏不党の司法を証明するため、自らの権力を既得権益の手に売り渡すことにより介入した!……鉱夫たちがストライキに打って出ることを決議するといつも、……彼らは決まって州の権力が雇用主の側の徒党として購入され、賃金を支払われ、戦っているのを目にした。この恐ろしいことを体面の装いの下で行おうとする試みすらなされなかった。[3]
ルーズベルトの主張にもかかわらず、炭鉄警察は1930年代まで職員を増やしつつ活動し続けた。
1917年4月11日のニューヨーク州警察の創設は論議と社会的な論争の中でなされ、設置法案はたった1票差で可決された[4]。ニューヨーク州警察を創設する提案の提唱者たちは州警察を労働争議において中立の立場を取る半警半兵 (policemen-soldiers) の組織であるとし、彼らは「ジャンダルムリでも、カラビニエリでもない」と主張して、労働者側の反対は「アメリカ人的でない」とほのめかした[5]。その代わりに、彼らは労働組合員が引き合いに出したこれらの悪評のある組織よりも肯定的な評判を得ていたオーストラリアの騎馬警察のようになる予定であった[5]。ペンシルベニアに続き、この新しい州警察も19世紀後期から20世紀初めにかけて多かったスト破りの任務から州兵を解放するために設立された。第一次世界大戦終戦直後にかけ、ミシガン州、コロラド州もペンシルベニア州にならい州警察を設置した[1]。
ニューヨーク州警察へのスト破りの需要は時と共に減少し、彼らの使命は州間高速道路網の創設と自動車の普及によって近代化された。初期の州警察官 (state trooper) たちは、その名が示唆するように騎馬部隊であったが、20世紀中頃までには完全に自動車化された警察組織となった。
1920年代の連邦政府は、南部諸州による州警察の創設に対して概ね不信感を抱いていた。それらの組織が黒人市民による投票や市民権の行使の妨害に用いられるのではないかと懸念していたのである。加えて、南部諸州は労働組合が少なく、北部のいくつかの鉱業諸州に比べて州警察の必要は薄かった。この時期、クー・クラックス・クラン (KKK) もまた復活しつつあった。そのため、南部諸州は運転免許事務、車両登録、スピード違反取締り、車両装備安全、自動車保険関連法、飲酒運転といった、この時期増加しつつあった自動車や幹線道路安全に関する問題を処理する目的の組織を設立した。その後、これらの組織には全般的な警察権が付与されていったが、第一の関心は幹線道路・自動車法執行であり続けた。
例えばノースカロライナ州は、問題となりつつあった自動車窃盗に対処するため、1921年に自動車省に自動車窃盗捜査部隊を設置したが、州はその全土にわたって単独で交通法規を執行する、より規模が大きく、制服を着用した道路警邏隊組織の必要性に気づいた。この時代、ノースカロライナ各地の保安官は交通法規執行のための人員もリソースも訓練も不足していたが、自らの権力が実質的な州警察に奪われることも望まなかった。そして、ノースカロライナ州ハイウェイ・パトロールは1929年7月1日に創設された。創設当初の幹部たちはペンシルベニア州警察学校へ訓練に送られた。修了後、彼ら警部補たちと警部1人はノースカロライナに戻り、モアヘッドシティにあった第一次世界大戦時に設置され放棄された陸軍基地キャンプ・グレンで新人の訓練キャンプを行い、州ハイウェイ・パトロール (NCSHP) を始動させた。NCSHPは当初交通法規の執行権のみが与えられていたが、1930年代初頭にその他の犯罪、とりわけ銀行強盗に対処する権限が追加された。これは、1930年代の大恐慌の時代、ギャングの跋扈に伴い銀行強盗が続発する中、各州が連邦捜査局 (FBI) を支援できるよう、連邦政府の要請によってなされたものであった。この時期、FBIは自らの当時の銀行強盗の大量発生への対処にノースカロライナの州警察官を支援させるのを準備するため、NCSHPに対し予備のトンプソン.45口径短機関銃を100丁供与した。予測されていたほどの数の銀行強盗はノースカロライナでは発生せず、その発生は代わりにテキサス州からミネソタ州にかけての南西部、中西部、グレートプレーンズの諸州の人口密度が低く広大な地域に限られた。これらの銃はローリーのNCSHPの中央武器庫に保管され、実際に配備されることはなく、1980年代中頃に連邦政府に返還された。
1919年、バージニア州は自動車取締り機関を創設し、これは1932年に州警察と定められた。ケンタッキー州は1935年にハイウェイ・パトロールを創設し1948年には州警察と定めたが、かつての南北戦争時の南部の境界にあるこれらの州は、より深い南部の諸州よりもさらに連邦政府の注視の下にあった。ディープサウスの旧連合国の州で唯一州警察を本当の意味で保有したのがルイジアナ州である。ルイジアナ州警察もまた当初は道路警邏隊組織としてスタートしたが、1936年、この警察を強力なボディーガードとして利用した元同州知事ヒューイ・ロングの要求と影響により州警察となった。ロングはしばしばアメリカ史上最も影響力のあった民主党の政治家の一人であるとされる。
多くの州において、州警察は異なる名称で知られている。使用されている名称は州警察 (State Police)、ハイウェイ・パトロール (Highway Patrol)、州ハイウェイ・パトロール (State Highway Patrol)、州パトロール (State Patrol)、州警官隊 (State Troopers) である。しかし、これらの組織の管轄や機能は称号に関わらず通常同じである。いくつかの組織の名は、それらの職員によって通常こなされている職務を考慮すると、実際には実態と異なっている。二つを除いてすべての州警察組織が自らの構成員に言及する際に「trooper(騎馬警官)」の語を用いる。カリフォルニア州とニューメキシコ州が数少ない例外であり、代わりに「officer(〈一般の〉警察官)」の語を用いる。ニューメキシコ州は、ニューメキシコ州警察とは別の州の自治的機関であるニューメキシコ騎馬警邏隊 (New Mexico Mounted Patrol) に正式に任命され認証されたボランティアの州警察官 (state trooper) を擁する(2015年まではアリゾナ州も「officer」を使用していたが、それ以降「trooper」に切り替えている)。これらの呼称は通常歴史的なものであり、必ずしもその組織の機能や管轄を表しているわけではない。州警察官を指す口語またはスラングの単語としては、「troop」、「statey」、「stater」、または——トラック運転手のスラング (List of CB slang) では——「Smokey」、「full-grown bear」、またその警察の車両が真っ白である場合は「Polar Bear」などがある。特定の組織に対する各地方ごとのスラングも存在する。
アラスカ州とアーカンソー州はハイウェイ・パトロールと州警察の双方を持つただ二つの州である。アラスカ・ハイウェイ・パトロールはアラスカ州警官隊の一部局であり、アーカンソー・ハイウェイ・パトロールはアーカンソー州警察の制服パトロール部門である。これとは別にアーカンソー道路警察[6]がアーカンソー州運輸省の一部として存在するが、こちらは事業用・商用車両の規制組織である。同じく商用車規制組織であったニューハンプシャー・ハイウェイ・パトロールは、ニューハンプシャー州警察に吸収され、G部隊―商用車規制隊となっている[7]。
カリフォルニア州警察はカリフォルニア州総務省の下部組織で警備警察組織であり、1995年にカリフォルニア・ハイウェイ・パトロールと合併した。これを受けて、カリフォルニア・ハイウェイ・パトロールは幹線道路パトロールの任務に加えて警備警察の職務を継承した。
ペンシルベニア州は1923年、ペンシルベニアの急成長する幹線道路網において自動車法を執行するため、幹線道路省の内部に州ハイウェイ・パトロール (State Highway Patrol) を編成した。1937年6月29日、州ハイウェイ・パトロールは州警察と合併された[8]。
テキサス州警察は、エドマンド・J・デービス知事の任期中の1870年6月22日、テキサス州全土においてリコンストラクションに関連する犯罪に対処するために設立された。この警察は主に人種に起因する犯罪に対処し、黒人の警察官も所属していたが、このことが元奴隷主たち(および将来の人種分離主義者たち)の猛抗議を招いた。1873年4月22日に議会の命令により解散された[9]。以降はテキサス・ハイウェイ・パトロール (Texas Highway Patrol) が州規模の警察機能を担っている。
多くの組織が「州警察」(英:state police)という言葉を使用しているが、その意味は組織ごとに一貫していない。多くの州で、それは通報に応答し、犯罪を捜査し、犯罪多発地域を継続的にパトロールするフルサービスの法執行機関である。一方でいくつかの州警察組織は、通常それらの職員は完全な警察権を留保しているとはいえ、その名前にもかかわらず、任務が交通法執行に厳格に制限されている。アーカンソー州警察が例である。
州警察 (State Police)
道路警察 (Highway Police)
複数の組織が「ハイウェイ・パトロール」(道路警邏隊、公道巡邏隊、英:highway patrol)という言葉を用いているが、この名称は一部の例ではミスリードとなりうる。いくつかのハイウェイ・パトロール組織は、その名が示唆するように、幹線道路 (highway) での州の交通法の執行を専門としている。少数が、本式に通報に応答し、都市内部で警察機能を実行するフルサービスの州警察組織である。そしてその他は両者の間にあり、第一義的には交通法執行に集中するが、時と場所により必要であればその他の事件に対しても一般的な警察サービスを提供する。それらには暴動、刑務所内での騒乱、労働争議、スポーツ大会での警備などがある。
ハイウェイ・パトロール (Highway Patrol)
州ハイウェイ・パトロール (State Highway Patrol)
州警邏隊 (State Patrol)
他の49州や海外領土と異なり、ハワイは一続きの土地ではなく、主に8つの大きな島からなる列島である。この地理的条件のため、ある郡の管轄地域から別の地域へ道路を使って移動することは不可能である。その帰結として、ハワイ州は特に命名された州警察・道路警邏隊組織を保有しない唯一の州である。その代わりに、道路警邏隊の機能は4つの警察組織が担当する州の5つの郡それぞれの内部において実行される(カラワオ郡はマウイ郡の一部として扱われる)。
司法長官府 (Department of the Attorney General) には、府が扱う民事・刑事・行政事件を支援する捜査部が存在する[10]。
ハワイ州公安省保安官部 (Sheriff Division of the Hawaii Department of Public Safety) は、廷吏や刑務官を司法府に提供することに加えて、空港警備、麻薬取締り、テロ対策、州高官警護、その他2001年のテロ事件以降の専門的任務といった、通常は専門の州警察組織または議事堂警察によって行われる警備警察任務を実行する。
アメリカの5つの定住海外領土のうち3つが領土全体にわたって管轄を有する警察を擁している:
コメントのない組織は独立組織である。