この項目「恐怖の総和」は翻訳されたばかりのものです。不自然あるいは曖昧な表現などが含まれる可能性があり、このままでは読みづらいかもしれません。(原文:英語版The Sum of All Fears(oldid=1001604174)) 修正、加筆に協力し、現在の表現をより自然な表現にして下さる方を求めています。ノートページや履歴も参照してください。(2024年2月) |
恐怖の総和 The Sum of All Fears | ||
---|---|---|
著者 | トム・クランシー | |
訳者 | 井坂 清 | |
発行日 |
1991年8月14日 1993年5月1日 | |
発行元 |
G.P. Putnam's Sons 文藝春秋 | |
ジャンル |
| |
国 | アメリカ合衆国 | |
言語 | 英語 | |
形態 |
上製本、ペーパーバック 文庫本 | |
ページ数 |
798 上巻739+下巻757 | |
前作 | いま、そこにある危機 | |
次作 | 容赦なく | |
公式サイト | https://tomclancy.com/product/the-sum-of-all-fears | |
ウィキポータル 文学 | ||
|
『恐怖の総和』(きょうふのそうわ、The Sum of All Fears)は、トム・クランシー作、1991年刊行の政治スリラー小説である。『いま、そこにある危機』(1989年)の続編として発表され、「ニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト」で1位でデビューした[1]。ジャック・ライアンの映画シリーズをリブートし、若い頃のCIA分析官役でベン・アフレックが主演した映画化作品『トータル・フィアーズ』が、2002年5月31日に公開された。
ジャック・ライアンシリーズの作中時系列は『いま、そこにある危機』の後、『日米開戦』の前に当たる。今やCIA副長官を務める主人公ジャック・ライアンが、パレスチナと旧東ドイツのテロリストによって、米国とソビエト連邦が核戦争に突入するよう共謀する中で、中東和平を守るため奮闘する。
第四次中東戦争の初日、イスラエル国防軍(IDF)は、敗北を食い止めるために戦術核攻撃を行う準備をしていた。核攻撃の必要性は回避されたが、用意されたMark 12核爆弾のイスラエル製コピー一発が混乱の中、モルデカイ(モッティ)・ザディン中尉が乗って出動を繰り返すA-4スカイホーク攻撃機に誤って残された。その後、A-4はカフル・シャムズ近くのシリア上空で撃墜される。起爆装置が未装着だった核兵器は地面に落下し、そのままドルーズ派の農夫の畑に埋もれて失われた。 18年後、イスラエル国家警察のベンヤミン(ベニー)・ザディン警部(偶然にも撃墜されたパイロットの兄弟)は、妻が不倫関係にあったことを知ったあと、ハシド派ユダヤ教の原理主義派に改宗し、神殿の丘でパレスチナ人の暴力的なデモを扇動しようとする。デモ隊が思いがけず平和的な抗議活動を行ったとき、ザディン警部はとにかく抗議者に催涙ガスとゴム弾を発射するよう警官に命じ、そしてデモのリーダーを至近距離から撃ち殺してしまう。米国は、イスラエルを外交的に擁護できないことに気づいているが、中東を不安定化させる危険を冒さずにイスラエルの支援を撤回することはできないことを知っている。
CIA副長官(中央情報局副長官、DDCI: Deputy Director of the Central Intelligence Agency) のジャック・ライアンの助言に従い、国家安全保障問題担当大統領補佐官のチャールズ・オールデン博士は、エルサレムをバチカンのように、ユダヤ人、イスラム教徒、ローマ・カトリック教会、および東方正教会の宗教指導者による法廷によって管理され、スイス衛兵の独立した構成部隊によって保護される独立した都市国家に変えることで、和平プロセスを加速させる計画を実行に移す。イスラエルへの配慮として、米陸軍はより高度な装備をイスラエル国防軍に提供し、米陸軍の戦車戦の専門家と復活した第10騎兵連隊が運営する訓練基地をネゲヴ砂漠に建設することに合意する。誰もが驚いたことに、主にライアンがイスラエルとサウジアラビアの高官と会談したことや、民主化されたソビエト連邦で改革派のアンドレイ・ナルモノフ大統領が黙認したため、ライアンの計画はうまくいったようである。彼らの宗教的な対立が鎮まると、中東の派閥は紛争の交渉がはるかに容易になることを知る。
しかし、国家安全保障問題の特別補佐官であるエリザベス・エリオットはライアンとオールデンに恨みを抱き、彼らに対抗して計略を巡らす。まず彼女は、婚外子の父親がオールデンであるという醜聞を利用して、国家安全保障問題補佐官としてのオールデンの職を奪い、それは同時にそのストレスが眼窩吹き抜け骨折を引き起こす深刻な脳卒中でオールデンの死の一因となった。次に彼女は、妻に先立たれたJ・ロバート・ファウラー大統領との性的関係を持ち始め、和平調停におけるライアンの役割を公に除外し、自分自身の手柄にしようとファウラーを操る。ライアンが彼女を、その協定について反対するアメリカ人を不当に黙らせようとしていると非難したあと、エリオットはライアンが不倫関係にある若い未亡人の子の父親であると非難する組織的中傷を企む。ジャックの友人である護衛官のジョン・クラークとドミンゴ・シャベスは、ライアンの妻キャシーにその疑惑は誤りであると説得した(ジャックの不倫相手とされるのは、バック・ジマーの未亡人であるキャロル・ジマーで、トム・クランシーの前の小説「いま、そこにある危機」で、ライアンとクラークがコロンビアからシャベスと軍の仲間たちを救出する作戦中に殺された人物である)。のちにライアンはCIAから退職することを決意するが、日本とメキシコの政府高官の間の腐敗した取引を暴くための秘密工作をまとめる前でなかった。
一方、パレスチナ解放人民戦線(PFLP: Popular Front for the Liberation of Palestine)の少数のテロリストたちは、イスラエルに対するジハード(聖戦)に立ちはだかる失敗に激怒し、失われたイスラエルの爆弾を偶然見つけると、独自の兵器を作り上げるため、核分裂性物質として爆弾のプルトニウムを利用した。テロリストたちは、不満を抱く東ドイツの物理学者マンフレート・フロムに協力を頼み、彼はかつての共産主義国家が資本主義民主国家として再統一されたことへ復讐する策略に同意する。フロムの専門知識をもって、テロリストたちは兵器を強化し、それを核融合装置に変える。テロリストたちは、米ソの核戦争勃発を狙い、ソ連兵に成り済ました東ドイツ人によるベルリンの米軍への偽旗作戦と同時に、コロラド州デンバーで開催されるスーパーボウルで兵器を爆発させることに同意する。この東ドイツ人は核戦争が両超大国を排除し、世界社会主義を裏切ったソビエトを罰することを期待しているが、パレスチナ人たちは攻撃がイスラエルとパレスチナの和平協定を破壊し、イスラエルへの米国の援助を終わらせることを期待している。
彼の仕事は終わったと思ったパレスチナ人たちはフロムを殺す。しかしフロムは、使う予定の材料の一部は最初に精製する必要があることを彼らにまだ伝えていなかった。パレスチナ人たちが爆弾の組み立てを終え、デンバーに運び込まれて使用されたとき、その不純物はその兵器の不完全核爆発を引き起こした。しかし観客や会場関係者のみならず、国防長官、国務長官、NORADの司令官など、スーパーボウルに集った要人たちはほぼ全員が爆発によって殺されてしまう。これに呼応する攻撃がベルリンで行われたことにより、ファウラーとエリオットが核戦争の準備をしている間、米国は一時的にDEFCON-1の状態とみなす。爆弾のプルトニウムが米国製であることを知ったライアンは、ホットラインにアクセスし、ソビエト大統領にソ連軍の警戒態勢を解くよう説得し、危機は回避される。
テロリストたちがメキシコシティでクラークに捕らえられ尋問されると、テロリストたちはイランのアヤトラ(最高指導者)が攻撃に関与していることをほのめかす。ファウラー大統領は、聖地コムにあるアヤトラの住居を核攻撃により破壊するよう命じた。ライアンはツーマン・ルールの実施により攻撃を回避してから、テロリストたちには嘘をついてコムは破壊されたと断言した。するとテロリストたちはイランが関与していないことを明らかにし、そして米国の信用を失墜させて和平プロセスを破壊し、イスラエルに対する軍事行動作戦を続けられるようにすることを意図して嘘をついたことを明らかにした。エリオットは神経衰弱に陥って入院し、ファウラーは辞任すると同時に副大統領のロジャー・ダーリングに引き継がれた(ファウラーは憲法修正第25条によって解任されたことが示唆されているが、のちの小説ではファウラーは不名誉な辞任をし、エリオットは強制的に解任されたことが明らかにされている)。
テロリストたちは、サウジ王家が所有する古代の刀を使用して、サウジアラビア特殊部隊の大尉によってリヤドで斬首刑に処せられる。その後、その刀はライアンに贈られる。続編では、その贈り物から着想を得て(海兵隊員としての彼の出自と組み合わされ)、ライアンに対するシークレットサービスの暗号名が「ソードマン」(剣士)とされた。
アーサー王の最後の戦い(カムランの戦い)に基づいた『カムランの戦場』 (The Field of Camlan) という仮題で書かれた本作は、冷戦時代に人類が耐えた核の恐怖を掘り下げると共に、クランシーはそのような脅威に関する自己満足は危険であると警告している。第一次湾岸戦争の数か月後に出版され、クランシーはまた、中東の永続的な平和に向けた架空の「次の大きな一歩」も構想していた。本書は、1977年のスリラー映画『ブラックサンデー』に着想を得たと言われている。この映画は、スーパーボウルの最中にフットボールスタジアムで飛行船を武器として爆破する様子を描いており、小説の中で3回言及されている。
この小説はまた、本書に関するマーク・セラシーニの評論によれば、「すべての間違った理由で権力を切望し、またそれを管理することにまったく不適切である人物を選ぶこと」の危険性を探求している。ファウラー大統領およびエリオットはビル・クリントンおよびヒラリー・クリントンと比較された[2]。
タイトルは、核戦争と、失われた核兵器を再構築しようとする小説の敵対者による陰謀への言及である。これは、この小説の2つあるエピグラフの1つ目に書かれているウィンストン・チャーチルの引用から来ている。
「 | Why, you may take the most gallant sailor, the most intrepid airman or the most audacious soldier, put them at a table together—what do you get? The sum of their fears.[3] | 」 |
本書で実施されたエルサレムに関するバチカン的な解決策は、最終的にはエルサレムを(ラテン語で「分離された身体」を意味する)「Corpus separatum」のようなものにすることを実際に規定した、1947年のパレスチナ分割決議に由来している。1948年の第一次中東戦争の成り行きは、この計画の実施を妨げた。後年、さまざまな和平計画や外交主的な取り組みがこの案を復活させようとしたが、実際には実現には至らなかった。この計画は中東以外で評判が良いことで知られているが、エルサレムの実際の住民の間では評判が悪く、中立的な政権に服従するよりは、むしろ彼らの側が完全に支配することを選ぶだろう。
ジョン・クラークに関するある限定的な詳細情報を含むデータベースファイルが、最初のゲーム版『レインボー・シックス』の背景情報として含まれており、さらに、同じデータベース項目が多くの続編にも見られる。その項目には「the Denver, Colorado atomic detonation [occurred] in 1989(1989年、コロラド州デンバー原子爆発発生)」という記述がある。本書はベルリンの壁の崩壊(1989年11月9日)とおそらく最初の湾岸戦争(1991年1月から2月)の両方の後に設定されているため、その情報は原作に基づいていない可能性がある。もしその情報が原作に基づく場合、これは、本書がその出版と同じ年に設定されていないことを意味する。第二の推論は、1989年はファウラー大統領の政権が終わった年である可能性が高いということである。
クランシーは1979年に本作の執筆を始め、第一章を第四次中東戦争中に設定した。それから彼は、ライアンがロシアの最高指導者であるナルモノフと初対面する『クレムリンの枢機卿』(1988年)を書くまで他の小説のための構想を放棄した。『恐怖の総和』の解決策を考え出したあと、クランシーは次の小説『いま、そこにある危機』(1989年)を将来の大統領であるファウラーを紹介する方法に使った。一貫性について、クランシーは「実のところシリーズ全体が、作品の全体を通して分岐と収束し続ける論理的で接続された物語のネットワークです」[4]と述べている。本作は、爆弾を作る過程を詳しく説明していることで知られるが、ある技術的な詳細は変更されており、クランシーは小説の後書きで、自著の情報の多くはパブリックドメインで見つけることができることを明らかにした[5]。また原爆などの記述につき、チャック・ハンセンの研究を参考にしている[6]。
イスラエルは、第四次中東戦争の間、単座単発の軽量亜音速ジェット攻撃機であるA-4と複座双発の全天候型超音速戦闘爆撃機であるF-4の両方を使用していたが、A-4の核能力を使用は決して想定されていなかった。核弾頭はテルノフ空軍基地で組み立てられたが、小説で描かれたA-4ではなくF-4に配備された。これは米国に翌朝までに知られるような形で10月8日に行われ、ニクソン大統領は同日、「ニッケル・グラス作戦」として、損失を補填するため戦車や飛行機を含む通常兵器のイスラエルへの空輸補給を即時開始した。これらの核爆弾のいずれかが実際に出撃中に運ばれたかどうかは文書化されていない。
少なくとも1つ、現実の世界で埋もれた核弾頭が実際に文書化されているが、シリアのイスラエル人ではなくアメリカ人と米国である。マーク39核爆弾のプルトニウムピットは、 1961年ノースカロライナ州ゴールズボロで起こったB-52の墜落事故の後、畑の下、深さ33mに埋もれたまま、現在はフェンスで囲まれている。多くのB-52ストラトフォートレスが、1961年から1968年の間に、主に米国内での訓練飛行中に生きた核弾頭を搭載したまま墜落したが、その多くは回収されている。
本書は好意的な評価を得た。米国の出版業界情報誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』は、この小説を「ノンストップのジェットコースターに乗って手に汗握る結末に」と賞賛し、次のように付け加えている。「基本的に、クランシーは極めて重要で定義が難しい資質、つまり重圧の元での品位を描いている。テロリストであれ政治家であれ、クランシーの登場人物たちは共通の課題 - 階級、権力、および信条の自負が壊れる状況に直面している。彼らの反応は、注意深くそして共感を持って構成されており、本書を単に独創的なものでなく人を引き付けるものにしている。」[7]
米国の書評誌『カーカス・レビュー』はそれを「ゾクゾクする」や「まったく最高」と称賛した[8]。
本書は長編映画化され、2002年5月31日に公開された(邦題:『トータル・フィアーズ』)。ジャック・ライアンをベン・アフレックが演じ、ジョン・クラークをリーヴ・シュレイバーが演じた。さらに(ファーストネームがウィリアムに変更された)CIA長官マーカス・キャボットをモーガン・フリーマンが演じた。この映画は、それまでのすべてのライアン映画と異なるリブートであり、またその結果、敵対者がパレスチナのテロリストではなくネオナチであったり、ライアンがCIAの下級アナリストになったり、時期が2002年に変更されるなど、原作から大きな変更があった。クランシーは映画の製作総指揮者を務め、原作からの変更について、DVDリリースの解説トラックで「彼(クランシーと一緒にいるフィル・アルデン・ロビンソン監督)が無視した本の著者」と冗談交じりに自己紹介している。それとは関係なく、彼は解説の中で映画全体の技術的な不正確さについて不満を漏らした[9]。
『トータル・フィアーズ』は商業的な大成功を収め、興行収入は合計1億9,300万ドルに上った[10]。しかし、評論家からはさまざまなレビューを受けた。米国の映画評論サイト「Rotten Tomatoes」によると、評論家の59%がこの映画に肯定的な評価を与え、合計171件の評価に基づく平均評価は6/10であると報告した[11]。
次に、この映画はビデオゲーム化され、『レインボー・シックス』シリーズのゲームに似た戦術的な一人称視点シューティングゲームとなっている。レッド・ストーム・エンターテインメントにより開発され、2002年にユービーアイソフトによりリリースされた。