『戸口にあらわれたもの』(とぐちにあらわれたもの、英: The Thing on the Doorstep)は、アメリカの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトのホラー小説で、クトゥルフ神話の一つ。
1933年8月に執筆され、『ウィアード・テールズ』1937年1月号にヴァージル・フィンレイの挿絵付で掲載された[1]。
アーカムに生まれたダニエル・アプトンとエドワード・ダービイは、少年時代からの親友であった。エドワードば38歳のとき、アセナス・ウェイトに出会い、のぼせあがる。ダニエルを含む周囲は、アセナスに妙なうわさがあることを知っていたが、両想いの2人の交際をやめさせることはできなかった。
夫婦は新居に移り住む。エドワードは、アセナスを通じて秘教的な知識を得ていた。結婚してからというもの、エドワードの性格が変わり、まるで老エフレイムに似ているようとの噂が立つ。たまに会うダニエルに、エドワードは「外部から」手に入れたとかいう、奇妙な物品を見せて来た。
ある日、ダニエルのもとに、メイン州の警察署から電報が届く。森から出て来た支離滅裂な狂人が、ダニエルの保護を求めているというのである。ダニエルが丸一日かけて現場に向かうと、ようやく自分の名前と住所を思い出したエドワードは、意味不明のたわごとを一気にまくしたてる。彼は妻に突拍子もない幻想を抱いているようであった。エドワードの主張をよく聞くと、アセナスがエドワードの肉体を乗っ取ろうとしているらしい。さらに、アセナスはアセナスではなく、彼女の中にいるのは老エフレイムであるらしい。ダニエルがあきれていると、エドワードが急に冷静になり、先ほどの妄言を忘れてくれと述べる。
ある日、エドワードがダニエルの家に訪問してくる。彼は、先日のたわごとと同じことを再び述べ、妻アセナス=エフレイムを家から追い出したことを説明する。冬になると、エドワードの体調が悪化し、錯乱して療養所入りするも、別人のように落ち着きを取り戻し、退院する。
ある日、ダニエルの家の戸口に、エドワードの外套を着た男が現れる。彼は独特の呼鈴を鳴らさず、一言も喋らず、手紙をダニエルに手渡してくる。手紙には、エドワードが妻を殺したことと、老エフレイムがエドワードの魂をアセナスの死体に移して、エドワードの体を乗っ取ったと書かれていた。ダニエルは手紙を読んで気を失い、目を覚ましたとき、戸口には崩れ果てたものが悪臭を放っていた。警察が調べたところ、残骸はアセナスの死体で、頭蓋骨は砕かれ、腐れ果ててほとんど腐汁と化した忌まわしいものであった。
ダニエルはエドワードを射殺する。逮捕されたダニエルは、親友の仇を討ち、放置してはならぬ怪異を排除したのだと主張する。
本作にも名が散見される"リチャード・アプトン・ピックマン"が登場する。