損害保険(そんがいほけん、英: general insurance, non-life insurance 、仏: assurance de dommages)とは、被保険利益に生じた欠損を保険金額の限度で補填する保険[1]。略して損保(そんぽ)とも呼ばれる。
損害保険の本質には二つの考え方がある。
講学上、保険を保険契約の内容で分類すると損害保険と定額保険に分けられる[2]。
損害保険は保険事故の発生により生じた損害を填補する保険である[3]。一方、定額保険は保険事故の発生により損害の有無とは無関係に予め定められた一定額または年金を給付する保険である[3]。損害保険にはモラル・ハザード防止のための利得禁止原則があり、損害の填補以上の保険給付が禁止されるが、定額保険の場合は、人の死亡など金銭的な評価が困難なことにより、利得禁止原則は該当せず、当事者間で約定した金額が給付される[4]。
歴史的にみるとドイツやオーストリアでは損害保険、生命保険、傷害保険の3つに整理されてきた[5]。
日本の保険法では損害保険、生命保険、傷害疾病定額保険の3つに分類されている。保険業に関しては、保険業法を根拠法とし、金融庁による監督を受ける。
後述のとおり共済など、保険業法以外の根拠法に基づき実施される損害保障もある。共済事業団体の監督官庁は、その根拠法によって様々である。なお、保険契約と同様に、共済事業団体が契約者と締結する共済契約にも保険法が適用される。
日本では保険業法第7条により、損害保険会社は商号中に内閣府令(保険業法施行規則、平成8年大蔵省令第5号)で定めた文字を入れなければならない。具体的には次の通りである(施行規則第13条2項)。
大手損保会社
中堅損保会社
新興損保会社(2000年以降設立)
再保険会社
グループ | 正味収入保険料 | 当期純利益 |
---|---|---|
東京海上ホールディングス | 35,647 | 2,841 |
MS&ADインシュアランスグループホールディングス | 34,469 | 1,540 |
SOMPOホールディングス | 28,547 | 1,398 |
国内の損害保険会社と同じく、金融庁から保険業法に基づく免許を取得している会社である。
(共済の記事も参照)
2005年9月27日、日本の損害保険会社の内の16社にて、保険金の大量不払いがあった事が発覚[9]。その後の調査で保険金不払いが確認されたのは26社にまで達した。不払いは合計で約18万件、84億円に達し、不払いが確認された契約の大半が自動車保険の特約に集中していた。このため、金融庁がこの26社へ業務改善命令の行政処分を行った[10]。その後、2006年8月11日から上記26社の再調査を実施したところ、さらなる大量の不払いがあったことが判明し、合計で約31万8000件、187億円分という結果になり、先の行政処分が全くの無意味に終わっていたことが明らかになった[11]。
なお、損保業界の不払い問題はこれで終わらず、2006年6月の三井住友海上火災保険による第三分野保険での不払いが発表されたのを皮切りに、2006年11月には第三分野保険で不払いを行っていた損保会社は計14社にまで膨れ上がった。そして2007年3月14日には、そのうち10社が第三分野保険での多数の不適切な不払いを理由に金融庁より業務改善命令を受け、さらにそのうち6社は努力が不十分として業務停止命令を受けるに至った。
このように、不払い調査をしたその後に新たな不払いが大量発覚することが相次いだため、金融庁は2006年11月17日に不払いが発覚した損保26社に対して不払い調査のやり直し(通算3回目の不払い調査)を命じた。調査完了時期は保険会社により異なるが、2007年7月2日に損保26社全てでの調査が完了し、合計で約49万件、金額にしておよそ381億円という結果になった[12]。
また、こうした不払い問題の全容が明らかになるにつれ、保険募集人(保険販売員、保険代理店など)による商品販売時の不適正行為が不払いの原因となった事案も目立つようになった。これを受けて、募集人資格を設けている日本損害保険協会は、こうした状況を是正し募集人の法令遵守への意識を高めるために、2008年4月から募集人資格に更新制度を取り入れる方針を固めた(それまでの募集人資格は、基本的に一度取得すれば無期限で有効なものである)[13]。
多数の保険会社で次から次へと不払いが発覚してしまうという、まさに異常な状態となってしまった損保業界であるが、これは「商品の販売だけを最重要視し、後の保障や既契約者のことは二の次三の次」といった営業・利益最優先の体制によって、既存の顧客を軽視していたために引き起こされてしまった当然の結果であり、損保業界への社会からの信用が急速に薄らいだ。なお、各損保会社はこの件に対して、商品の複雑化に伴うシステムチェック機能の甘さおよび伝達の遅れといった内部管理の杜撰さが原因と弁明している。
2×4(ツーバイフォー)工法によって建築された建造物は、一般の木造建築物よりも耐火性能に優れているため、その分火災保険に対する保険料の割引が適用される。しかし2006年12月10日には損保大手6社にて、この割引を適用せず保険料を過徴収していた事例があったことが明らかになり、問題化した。
当初は火災保険のみの問題、すなわち「火災保険料取り過ぎ」と見られていたが、その後の調査で地震保険や自動車保険、その他傷害保険等でも同様の取り過ぎ行為を行っていることが判明した。
この事件が起きた後、保険会社による保険金支払い基準が一時的に緩くなった。不払いを恐れるがあまり、モラルリスク案件と疑われるものでも保険金支払いが比較的安易に行われるようになってしまった。裁判に持ち込まれた案件でも、被保険者に有利な判決が続いた時期があった。しかし、原油高や不況によるアフターロス(契約期間偽装)、偽装事故、便乗案件等と疑われる事例が増え保険会社の損害率が増加するにつれて、保険会社側でも手間はかかっても事故に関して整合性を技術的に確認し、物的に立証できた案件については支払を拒否するなどコンプライアンスを維持しつつ自衛の手段を取らざるを得なくなってきている。本来、こういった手段を用いるのは請求額の多い案件が多く、保険金詐欺を狙ったプロによるもので手口も巧妙で立証が難しいものが多かったが、最近では一般の素人によるもので請求額も低いものが増えてきている。尚、保険会社では立証によって詐欺案件と断定できた場合は請求者に対して調査にかかった費用全額を請求すると共に、特に悪質な場合は警察に詐欺未遂で告訴することもある。また、裁判においても保険会社のこういった取り組みによって、物的証拠がきちんとしているケースにおいては偽装と判断される判例が増えてきている。