放射線増感剤(Radiosensitizer)とは、放射線療法に対して腫瘍細胞をより敏感にする薬剤のことである。また、ラジオエンハンサーと呼ばれることもある。
従来の化学療法剤が、放射線治療の効果を高めるために放射線治療と併用されている。例えば、フルオロピリミジン系、ゲムシタビン系、プラチナアナログ系などである。フルオロピリミジン系は、腫瘍細胞のS期の細胞周期チェックポイントを異常に制御することで感受性を高める。ゲムシタビンも同様のメカニズムで進行し、S期の細胞で放射線によるDNA損傷の修復を失敗させる。シスプラチンなどの白金製剤は、鎖を架橋してDNAの修復を阻害するため、放射線によるDNA損傷の影響を悪化させる[1]。
放射線治療の大きな制約の一つに、固形がんの細胞が酸素不足になることが挙げられる。固形腫瘍は血液の供給を受けられなくなり、低酸素状態になることがある。酸素は強力な放射線増感剤であり、DNAを損傷するフリーラジカルを形成することで一定量の放射線の効果を高める。低酸素環境にある腫瘍細胞は、通常の酸素環境にある腫瘍細胞に比べて、放射線障害に対する抵抗力が2〜3倍にもなると言われている。この問題を解決するために、高圧酸素タンク、酸素を増やす代用血液、ミソニダゾールやメトロニダゾールなどの低酸素細胞増感剤、などチラパザミンの低酸素細胞毒素など、多くの研究が行われている。
2016年9月時点で、下記の放射線増感剤が臨床試験中である。
Name | Description |
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NBTXR3 | NBTXR3は、酸化ハフニウムのナノ粒子で構成されている[2][3]。PEP503とも呼ばれるNBTXR3は、外科医により腫瘍に直接注射器で注入される[2]。この薬剤は、X線を照射するとフリーラジカルを生成する。この薬剤に関する臨床試験は4本同時に実施されている。四肢および体幹の軟部肉腫を対象としたフェーズII/III[4][5]、肝細胞癌を対象としたフェーズI/II[6]、前立腺癌を対象としたフェーズI/II[7]、および口腔扁平上皮癌を対象としたフェーズI[8]である。 |
ニモラゾール | ニトロイミダゾール系駆虫薬ニモラゾールは、低酸素状態での放射線照射によるDNA損傷の収量を増加させる。ニモラゾールは、頭頸部扁平上皮癌の第一選択薬として、欧州でフェーズ3が進行中である[9]。 |
trans-クロセチンナトリウム (TSC) | TSCは、腫瘍組織内での酸素拡散を促進することを目的とする。膠芽腫(GBM)の患者を対象としたフェーズII臨床試験で検証された[10]。フェーズIIの結果では、標準治療による過去の2年生存率が27%から30%であったのに対し、TSCの全量投与を受けた患者の36%が2年後に生存していた[11]。 |
NVX-108 | NVX-108(ペルフレナペント)は、静脈内に注射して肺で酸素を拾い、低酸素組織に酸素を供給する代替血液である。放射線治療の前に腫瘍の酸素濃度を高めて放射線増感を図る第Ib/II相臨床試験が実施中である[12]。 |