この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
救急救命士 | |
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英名 | Emergency Life-saving Technician |
実施国 | 日本 |
資格種類 | 国家資格 |
分野 | 医療 |
認定団体 | 厚生労働省 |
等級・称号 | 救急救命士 |
根拠法令 | 救急救命士法 |
公式サイト | http://fasd.jp/ |
ウィキプロジェクト 資格 ウィキポータル 資格 |
救急救命士(きゅうきゅうきゅうめいし、米: Emergency Medical Technician、英: Emergency Medical Technician Paramedic)とは、病院への搬送途上及び医療機関に到着し外来での診療を終える、若しくは患者が入院するまでの間(救急外来等)において救急救命処置を施し、重度傷病者の生命の危機を回避することを目的とした国家資格の名称。
日本の法律上でのアルファベット表記は「Emergency Life-saving Technician」。英語の一般的な呼称は“Paramedic”(パラメディック)である。
本項では、特記がない限り、日本の救急救命士制度について述べる。
救急救命士法第2条にて「厚生労働大臣の免許を受けて、医師の指示の下に、救急救命処置を行うことを業とする者」と記されている[1]。
全国の自治体消防本部の救急隊の救急車に、常時最低1名乗車させることが目標とされている。救急救命士が活動するための構造になっている救急車を高規格救急車という。
救急救命士法第44条第2項で「救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び第53条第2号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。」と定められている[1]。
救急救命士は、救急車等に乗車して現場に向かい、傷病者に観察・処置を施しながら医療機関まで搬送する、プレホスピタルケア(病院前救護)を担う。この病院前救護の質を高めることが救急救命士の大きな目的のひとつであり、心肺停止を含む重症傷病者に対して適切な処置を実施することは救命率の向上につながる。また、救急隊員の指導・育成や、医療機関との連携強化も重要な役割である。
2021年10月1日付けで改正救急救命士法が施行されたことに伴い「救急現場から傷病者が入院もしくは帰宅するまで」の間において救急救命処置を実施することが可能となった。つまりこれまで救急現場や救急車内に限定されていた業務が医療機関でも可能となった。
かつては「救急隊員は医師でないため、医療行為を行うことはできない」とする日本の法制度上の制限により、救急搬送時の医療行為が一切禁止されていた。しかし、諸外国に比べて低い心肺停止患者の救命率や社会復帰率、目の前で苦しんでいる人間がいるのに、法律の壁によって手を差し伸べることができず、患者の周囲からは厳しい言葉で責められる現場救急隊員の実情を目の当たりにした、当時の東京消防庁救急担当主幹であった武井勝徳が雑誌『暮しの手帖』に投稿を行ったことや、1989年(平成元年)から約2年に渡りフジテレビの報道番組『FNNスーパータイム・週末』において、黒岩祐治の旗振りで救急医療の現場や、救急救命士の必要性を訴える特集を放送していた。それらのことが世論の反応を呼び、1991年(平成3年)4月23日に救急救命士法が制定されて制度化された[2]。
救急救命士は前記の通り、1989年(平成元年)に東京消防庁救急担当主幹の武井勝徳が、日本医師会で「このままでは、大変なことになります」と訴えた。それに共感した日本医科大学付属病院高度救命救急センターの医師・助教授(当時)山本保博などが、法律が改正される日のために、東京都内の救急隊員を集め、気管内挿管・点滴・除細動などの指導を行った。
救急救命処置とは、「その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者(以下「重度傷病者」という。)が病院又は診療所に搬送されるまでの間に、当該重度傷病者に対して行われる気道の確保、心拍の回復その他の処置であって、当該重度傷病者の症状の著しい悪化を防止し、又はその生命の危険を回避するために緊急に必要なもの」と定義されている。(救急救命士法第2条第1項)
救急救命処置は、保健師助産師看護師法(保助看法)によって規定されている看護師(准看護師)の独占業務である「診療の補助」にあたる(すなわち、看護師以外の者が「診療の補助」を業としてはならない)が、救急救命士法第43条で「保健師助産師看護師法の規定にかかわらず診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる」と定められている。これは、法律によって一定の条件下において看護師の診療の補助業務の独占を一部解除することによって、他の医療資格であっても保助看法の規定にかかわらず診療の補助の一部を業とすることができるもので、臨床検査技師や作業療法士なども同様である。
なお、2021年10月1日付けで改正救急救命士法が施行されたことに伴い「救急現場から傷病者が入院もしくは帰宅するまで」の間において救急救命処置を実施することが可能となった。
以下に救急救命処置の範囲を示す[3]。
上記の救急救命処置のなかで、一部のものは特定行為として制限されている。特定行為を行う際には、オンラインメディカルコントロールにより、医師の具体的な指示を受けなければならない(救急救命士法第44条)[1][4]。すなわち、救急救命士が現場にて特定行為の適応であると判断した場合、地域のメディカルコントロール担当医師に電話などで直接指示を要請し、その医師の指示に従って処置を行うということである。ただし東日本大震災に伴う救援活動の際には、通信事情の問題から、医師の具体的指示が得られない場合、特定行為を行うことの違法性は阻却され得るとの見解が、厚生労働省医政局によって示された[5]。
指示を出す医師に医師免許以外の資格は必要ないが、主に地域メディカルコントロール体制下で、指導医またはメディカルコントロール医師(MC医)が指示を出すことになる。
以下に、医師の具体的指示を必要とする救急救命処置(特定行為)を挙げる[6]。
従来の特定行為は、心肺停止状態の傷病者でなければ行うことができなかった。しかし、平成26年4月1日の救急救命士法施行規則の改正に伴い、心肺停止前の静脈路確保及び輸液、低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与が認められた[8]。
これら特定行為の拡大は、2001年秋田市消防本部の救急救命士が日常的に気管挿管を実施していた実態が判明したことが契機となっている(その後他県でも同様の実態が判明)。詳しくは気管挿管#問題を参照。
大規模災害や集団食中毒などによって多数の傷病者が発生した際には、傷病者の重症度・緊急度によって搬送・処置の順位を決めるトリアージを行う。
救急救命士法施行規則の改正により救急救命士が行える行為の範囲が段階的に拡大されてきているところ、その技術を担保するためにメディカルコントロール体制による制限が設けられている。施行規則が改正・施行された場合にはそれ以前に免許を受けた者を含めた全ての救急救命士について行える行為が拡大されるところ、地域メディカルコントロール協議会が、認定を受けたものにしか医師の指示を出さないというプロトコール(規約)を設けることにより、一定の教育・課程を修了したものにしかそれらの行為をさせないという制度である。現在は、この制度により、「気管挿管」「薬剤投与(アドレナリン)」「ビデオ喉頭鏡を用いた気管挿管」「薬剤投与(ブドウ糖溶液)」「心肺機能停止状態でない傷病者に対する静脈路確保」が制限されている。認定救急救命士の実習においては、メディカルコントロールの下、気管挿管や薬剤投与などの行為が院内で行われる。なお、アドレナリン投与、ブドウ糖溶液投与、心肺機能停止状態でない傷病者に対する静脈路確保については、施行規則改正後に養成教育(救急救命士国家試験を受験するための教育)を受けているものが新たに認定を受ける必要はないが、認定救急救命士と同様の処置を行うための登録が必要(薬剤登録救急救命士)となる。認定又は登録は、都道府県メディカルコントロール協議会が行う。
メディカルコントロールとは、病院前救護における救急隊員が行う医療サービスの質を管理する体制である。本来、医師が救急現場に出向き、治療を行うのが理想であるが、あまり現実的ではない(ドクターカーやドクターヘリも存在するが、全ての救急事案に対応するのは現状では不可能である)。このため、救急救命士を含めた救急隊員が医師のかわりに処置を行うことになる。この処置の中には医行為に該当するものも多くあり、医師により指導・管理され、質が保たれていなければならない。
各都道府県・地域に「メディカルコントロール協議会」(地域により名称が異なる)が存在し、そこに所属する医師によって、救急隊員の教育・研修、実際に処置を行う際の指示や助言、処置の事後検証(症例検討会)などが行われており、救急隊員の質が管理されている。
メディカルコントロールには直接的(オンライン)メディカルコントロールと間接的(オフライン)メディカルコントロールがある。
メディカルコントロール医師が電話などで直接処置の指示や助言を行うもの。上記の特定行為を行う際にはオンラインで医師に指示(医師の具体的指示)を要請する必要がある。
救急隊員の教育、プロトコール(処置の手順書のようなもの)の策定・検討、救急隊員による処置の評価・検証、救急医療体制の向上策の検討などが挙げられる。医師の具体的指示を必要としない処置は、プロトコールによって事前に医師の指示が示されており(包括的指示という)、これに基づいて行われる。プロトコールは各地域ごとに定められており、内容が異なっている。
消防機関に属さない救急救命士は救急救命士全体の37%であるが、ここから海上保安庁・自衛隊・警察に属する救急救命士を除いたものが「民間救急救命士」である[14]。民間救急救命士は主として警備会社・病院・民間搬送機関に所属することが多い[14]。
民間では、ベテランであれば患者搬送の補助や救命講習の指導役などに経験を活かせるため、一部の病院が消防局を定年退職した資格者を積極的に採用している[15]。
厚生労働省では「救急救命士法における消防に属さない救急救命士の活用範囲」として「役場救急での活用」以外にも、「地域包括ケアシステムでの活用」、「集客施設・イベントでの活用」、「救命センター等病院での活用」を例に挙げている[14]。今後は、消防機関退職後の救急救命士の活用や、新たな領域においても医療資格を有する病院前のスペシャリストである救急救命士の活用といった活用が検討されている[14]。
救急救命士国家試験の受験資格は、救急救命士法第34条で規定された救急救命士養成所(消防学校ならびに専門学校・大学)で履修した者に与えられる。詳しくは救急救命士国家試験#受験資格を参照。
地域別は救急救命士養成所のページを参照
各消防機関より、救急隊員として5年若しくは2000時間の実務経験を有する者が辞令により入所し養成される。
など