火星(かせい)は、第二次世界大戦期に三菱重工業が開発・製造した航空機用空冷星型エンジンである。社内呼称はA10、海軍略符号はMK4、陸軍ハ番号はハ101及びハ111、陸軍制式名称は一〇〇式一五〇〇馬力発動機、陸海軍統合名称はハ32。
金星をベースに排気量を拡大したエンジンであり、誉の登場まで日本では最大の馬力を発揮したことから自社のみならず他社の機体にも多く採用された。
三菱が、本来大型機用として開発した金星が、出力不足で大型機には能力不足であるということが判明したため[要出典]、金星をベースにしてさらに大排気量のエンジンを開発することとなり、1938年(昭和13年)2月に開発に着手した。
このエンジンは海軍では十三試へ号と呼ばれ、1935年(昭和10年)2月に開発に着手した同一気筒寸法である海軍向けの一〇試空冷八〇〇馬力発動機を直接の原型とする。気筒径、行程長は以前製作していたイスパノ650馬力発動機と同じ[1][2]150mm×170mmとした。カムの前方集中配置など基本的な構造は金星を踏襲しているが、過給器は2速とし高高度性能の向上を図っている。
初号機は1938年(昭和13年)9月に完成、各種試験を経て1940年(昭和15年)に陸海軍に制式採用となった。
1940年(昭和15年)に火星一一型の量産が開始され、すぐに出力軸の減速装置を変更した火星一二型に移行する[注釈 1]。次いで1941年(昭和16年)には水メタノール噴射装置を採用し高回転化、高ブースト化した性能向上型が登場し、火星二◯型として採用されるようになる。この性能向上型に関しては、陸軍ではハ111という名称が割り当てられたものの、陸軍では火星の18気筒版とも言えるハ104を採用したため、ハ111を搭載した陸軍機は生産されることは無かった。
火星一◯型/ハ101の生産時期は、1938年(昭和13年) - 1944年(昭和19年)、総生産基数は計7,332基、火星二◯型/ハ111の生産時期は、1941年(昭和16年) - 1945年(昭和20年)、総生産基数は計8,569基であった。
初期シリーズ。
水メタノール噴射装置を搭載して回転数・ブースト圧を引き上げ出力を向上させたシリーズ。
名称 | ハ101 | 火星一一型 | 火星一二型 | 火星一三型 | 火星一五型 | ||
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形式 | 空冷複列星型14気筒 | ||||||
内径×行程 | 150 mm × 170 mm | ||||||
排気量 | 42.1 L | ||||||
圧縮比 | 6.5 | ||||||
全長 | 1,575 mm | 1,705 mm[4] | 1,753 mm[4] | 2,034 mm[4] | 1,705 mm[4] | ||
直径 | 1,340 mm | ||||||
乾燥重量 | 700 kg | 725 kg[4] | 740 kg[4] | 770 kg[4] | 725 kg[4] | ||
燃料供給方式 | 降流式キャブレター | ||||||
過給機 | |||||||
形式 | 遠心式機械過給機1段2速 | ||||||
インペラ径 | 280 mm[5] | 320 mm[5] | |||||
増速比 | 7.40、9.12[5] | 7.40、9.12[4][注 1] | |||||
減速比 | 0.684 | 0.50 | 0.684 | ||||
離昇馬力 | |||||||
馬力 | 1,410 PS (1,390 hp) | 1,530 PS (1,510 hp) | 1,460 PS (1,440 hp) | ||||
回転数 | 2,450 rpm | ||||||
吸気圧 | +240 mmHg | +270 mmHg[6] +250 mmHg[4] |
+250 mmHg | +250 mmHg[4] | +250 mmHg | ||
公称馬力 | |||||||
一速 | |||||||
馬力 | 1,410 PS (1,390 hp) | 1,410 PS (1,390 hp)[6] 1,480 HP[4] |
1,480 PS (1,460 hp) | 1,420 PS (1,400 hp) | |||
回転数 | 2,350 rpm | 2,220 rpm[7] 2,350rpm[4] |
2,350 rpm | ||||
吸気圧 | +165 mmHg | +180 mmHg | +180 mmHg[4] | +180 mmHg | |||
高度 | 2,100 m | 2,000 m[6] 2,200 m[4] |
2,200 m | 2,000 m[7] 2,600 m[8][4] |
2,600 m | ||
二速 | |||||||
馬力 | 1,250 PS (1,230 hp) | 1,340 PS (1,320 hp)[6] 1,380 HP[4] |
1,380 PS (1,360 hp) | 1,300 PS (1,300 hp) | |||
回転数 | 2,350 rpm | 2,200 rpm[7] 2,350 rpm[4] |
2,350 rpm | ||||
吸気圧 | +165 mmHg | +180 mmHg | +180 mmHg[4] | +180 mmHg | |||
高度 | 4,000 m | 4,000 m[6] 4,100 m[4] |
4,100 m | 6,000 m | |||
出典 | [4] | [5][6] | [9] | [7] | [6] |
名称 | 火星二一型 | 火星二二型 | 火星二三甲型 | 火星二五型 (ハ111相当) |
火星二六甲型 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
形式 | 空冷複列星型14気筒 | ||||||
内径×行程 | 150 mm × 170 mm | ||||||
排気量 | 42.1 L | ||||||
圧縮比 | 6.5 | ||||||
全長 | 1,855mm[10] | 1,753 mm[10] | 1,945 mm[10] | 1,705 mm[10] | 1,990 mm[10] | ||
直径 | 1,340 mm | ||||||
乾燥重量 | 780 kg[10] | 750 kg[10] | 860 kg | 760 kg[10] | 805 kg[10] | ||
燃料供給方式 | 降流式キャブレター | 多点定時燃料噴射 | 降流式キャブレター[注 2] | 多点定時燃料噴射 | |||
過給機 | |||||||
形式 | 遠心式機械過給機1段2速 | ||||||
インペラ径 | 320 mm[5] | 320 mm[10][注 3] | 310 mm[10][注 3] | ||||
増速比 | 7.00、9.12[5] | 7.00、9.12[10][注 3] | 7.7、10.1[11] | ||||
減速比 | 0.54 | 0.50 | 0.50[3] | 0.625 | 0.50[注 4] | ||
離昇馬力 | |||||||
馬力 | 1,850 PS (1,820 hp) | 1,850 PS (1,820 hp) | 1,820 PS (1,800 hp) | 1,850 PS (1,820 hp) | 1,760 PS (1,740 hp)[11] 1,820 HP[8] | ||
回転数 | 2,600 rpm | ||||||
吸気圧 | +450 mmHg | +450 mmHg[10] | +450 mmHg | +450 mmHg[10] | |||
公称馬力 | |||||||
一速 | |||||||
馬力 | 1,570 PS (1,550 hp) | 1,680 PS (1,660 hp) | 1,600 PS (1,600 hp) | 1,570 PS (1,550 hp) | 1,590 PS (1,570 hp)[11] 1,510 HP[8] | ||
回転数 | 2,500 rpm | 2,500 rpm[10] | |||||
吸気圧 | +300 mmHg | +300 mmHg[10] | +300 mmHg | +300 mmHg[10] | |||
高度 | 2,100 m | 2,100 m | 1,300 m | 2,100 m | 2,500 m[11] 2,800 m[8] | ||
二速 | |||||||
馬力 | 1,300 PS (1,300 hp) | 1,540 PS (1,520 hp) | 1,510 PS (1,490 hp) | 1,300 PS (1,300 hp) | 1,400 PS (1,400 hp)[11][8] | ||
回転数 | 2,500 rpm | 2,500 rpm[10] | |||||
吸気圧 | +300 mmHg | +300 mmHg[10] | +300 mmHg | +300 mmHg[10] | |||
高度 | 5,500 m | 5,500 m | 4,150 m | 5,500 m | 6,500 m[11] 7,200 m[8] | ||
出典 | [6] | [12] | [8] | [6] | [11][注 5] |
注、表中 ? は文献に記載がないもの、不明は不明であると記述があるもの。