白金耳(はっきんじ)は、白金のような反応性の少ない材質(扱いやすく廉価であることからニクロムが使われることが多い)でできた針金に持ち易い柄を付けたもので、主に微生物の移植に用いる。先端の形状は、直径 3 mmのループ状になっているものが一般的であり、狭義にはこれを白金耳、もしくはエーゼ(独 Öse、書類にひもを通すための小穴、ハトメなどの意)と呼ぶ。直径 2 mm 程度のループ状にした小型のもの、何も処理をしていない針金のもの(白金線)や、かぎ状にしたもの(白金鈎、はっきんこう)など、用途に合わせて作成され、広義にはこれらをすべて白金耳と総称する。
直線は高層培地への穿刺培養等、ループ状は平板培養への塗抹や菌の植え継ぎ等、かぎ状は釣菌等に使用される。ループ状のものは表面張力によりループ内に液体を保持できるため、増菌後の液体培地から菌液を採取するのにも用いられる。
ループ状の白金耳は、細菌の量や液体の量をおおまかに量ることも可能であり、ループ部分を過不足なく満たした状態の量を「1白金耳」という単位として表現する。一般的な細菌のコロニーは、乾燥していない、水分を十分に含んだ状態のときで、1白金耳が約 2 mgに相当する。1白金耳が湿菌体 2 mg になるように調整された白金耳は標準白金耳と呼ばれる。また、保持される液量が 10 µl、5 µl など一定になるように調節した白金耳もあり、これらは定量白金耳とも呼ばれる。微生物検査などの際には、その秤量の簡便さから、白金耳を利用して秤量を行う場合も見られる。
白金耳は使用の際、コンタミネーションを防ぐため、必ず滅菌してから使用する。一般的には火焔滅菌が用いられ、ブンゼンバーナー等の炎で赤熱するまで加熱し、培地の空きスペースなどで冷やしてから試料を採取する。火焔滅菌の場合、菌が付着した場所は、まず炎の内炎部に素早く差し込み、ゆっくりと引き上げて温度が高い外炎部で滅菌を完了させる。これにより、内炎部で熱により菌が飛散(はじける)した場合でも、外炎部に阻まれて周辺を汚染することがない。但し更に危険度が高い菌を扱った場合や、汚染を防ぐ必要がある場合は、菌が付着した白金耳を直接火焔滅菌せず、適切な消毒液(消毒用エタノールなど)に暫く浸してから火焔滅菌を行う。