「自由のフライ」を掲載した米国下院カフェテリアのメニュー
自由のフライ [ 1] 、フリーダムフライ [ 2] (英語 : freedom fries )は、2003年 頃にアメリカ合衆国 で一時期流行ったフライドポテト の別名。米国ではフライドポテトをフレンチフライ(French fries 「たっぷりの油で揚げたフライ 」の意)というが、フランス がイラク戦争 への加担を拒否したため、これに腹を立てた一部の米国民が不買運動などの反仏活動を行い、その一環としてフレンチフライドポテトを「自由のフライ」と言い換えた。
「自由のフライ」の言い換え運動は、ノースカロライナ州 ボーフォート の「カビーズ」(Cubbie's)というレストランを経営するニール・ローランド(Neal Rowland)によって始められた。これは第一次世界大戦 中に「ドイツ風の」(German )という形容詞が「自由の」(liberty )に呼び換えられた例にならった(後述)ものだった。ローランドは2007年3月に「自由のフライ」を商標登録した[ 3] 。
2003年 3月11日 にロバート・ウィリアム・ナイ (英語版 ) 下院議員(オハイオ州 選出、共和党 )とウォルター・ビーマン・ジョーンズ・ジュニア (英語版 ) 下院議員(ノースカロライナ州 選出、共和党)が下院で運営されているカフェテリアのメニュー からフレンチフライ、フレンチトースト の名前を取り除くと発言し、フレンチフライでなく「自由のフライ」という名前で注文することになった。この措置は議員の投票や審議によらず食堂の経営を管轄する下院運営委員会 (Committee on House Administration) の委員長であるナイの決定でなされた。またフレンチトーストも「自由のトースト」 (freedom toast) と改称された[ 4] 。
ナイ議員の発表ではこの措置はフランス に対する象徴的な不満の表明であるとされ、インターネット 、eメール やCNN 、FOX などのニュース報道で盛んに取り上げられた。駐米フランス大使館では「フライドポテトはベルギー 発祥の料理 である」「...とても深刻な問題に面しているとても深刻なときであり、私たちは(アメリカ人 が)ジャガイモ につける名前に注意を払ってはいない」と述べたぐらいで特にコメントをせず、また批判派がフレンチとは「フランス風に調理した」という意味であろうという誤認説を出した[ 5] [ 6] 。
マサチューセッツ州 選出のバーニー・フランク (英語版 ) 下院議員(民主党 )は、「(改称のせいで)議会 がいつもより余計にバカみたいに聞こえる」とコメントした。ニューヨーク州選出のホセ・セラーノ (英語版 ) 下院議員(民主党)は、「くだらないことを騒ぎたてている」とコメントし、議員たちにもっと喫緊の課題に集中するよう訴えた[ 7] 。カリフォルニア州 サンタクルーズ のザ・サターン・カフェ(The Saturn Cafe)は、改称に抗議してフレンチフライを「ジョージ・W・ブッシュ を弾劾せよフライ」("Impeach George W. Bush fries")に改称した[ 8] 。
フレンチ・プードル 、フレンチホルン など他にフレンチとつく単語は言い換えられなかった。またマスタード 製造業のフレンチ社 (French's) の親会社レキットベンキーザー がこの騒動でフレンチは創業者の苗字によるものであるから関係なく、反米的なのではないと釈明した[ 9] [ 10] 。
2005年のギャラップ 社の世論調査 では、調査対象者の66%がフレンチフライとフレンチトーストの改称について「馬鹿げていた」と回答した。改称は愛国的だったと回答した対象者は全体の33%で、1%が無意見と回答した[ 11] 。同年ウォルター・ジョーンズが反イラク戦争 派に転向し自由のフライについて「起こらなければよかった」[ 12] と述べ、2006年 11月3日 にジャック・エイブラモフによるインディアン・カジノ に関するロビーイングスキャンダル (Jack Abramoff Indian lobbying scandal) に起因してナイが引責辞職をするなど提唱者がいなくなりブームは完全に終息した[ 13] 。しかし、タカ派 の発言で知られるカントリー・ミュージック 歌手トビー・キース が経営するレストランチェーン 「トビー・キースのアイ・ラブ・ディス・バー・アンド・グリル (英語版 ) 」[ 14] では2017年4月にまだ「自由のフライ」が注文できた[ 15] 。
アメリカでの言い換えはこれが初めてではない。第一次世界大戦 の時には、敵国ドイツ に対する反ドイツ感情 (英語版 ) に連動した運動として言い換えが行われ、ザワークラウト が「自由のキャベツ 」(liberty cabbage)、ダックスフント が「自由の小犬」(liberty pups)、ハンバーガー が「自由のステーキ 」(liberty steaks)になり、さらに風疹 (英語 ではGerman measleつまりドイツ麻疹という)さえも「自由の麻疹」(liberty measles)と呼ばれた[ 16] 。自由のフライはこの時の言い換えに倣っている[ 17] 。
1941年、親ナチス・ドイツ であったフランスのヴィシー政権 に反対するアメリカ人のシェフ達が、ヴィシソワーズ を「クレーム・ゴロワーズ」(Crème Gauloise、ガリア 風クリームスープの意。この場合のガリアはフランスを指す)に改名しようとしたが、この名称は定着しなかった。
スペイン
フランシスコ・フランコ が勢力を握ると“filete ruso”(ロシア 風ヒレ 肉)が“filete imperial”(帝国ヒレ肉)になり、 “ensaladilla rusa”(ロシアサラダ )が“ensaladilla nacional”(国風サラダ)に言い換えられた。
ギリシア
1960年代 にトルコとの緊張が高まると、“Turkikos kafes”(トルココーヒー )が“Ellinikos kafes”(ギリシアコーヒー)と呼ばれるようになった[ 18] 。
トルコ
反共思想からロシアサラダがアメリカンサラダになった。
ニュージーランド
1995年 9月にフランス が太平洋 、ムルロア環礁 で核実験 を行うとフランスパン をキーウィパンと言い換える店が現れた。また米国のように大きくは報道されなかったが家族経営の小さい食堂でフレンチフライをキーウィフライ(あるいはただの「フライ」)と言い換えるところもあった。ニュージーランドではフライドポテトのことをフライとも呼ぶが、多くはイギリス式のチップス ("chips") を用いる。
キーウィフルーツ はニュージーランド で国鳥 とされているキーウィ にちなむが、これは最初(1959年 )にキーウィフルーツを商業化したニュージーランドの貿易商であるターナーズ・アンド・グローワーズ社 (Turners and Growers) の販売戦略による命名である。それ以前は中国セイヨウスグリ (“Chinese gooseberry ”、キーウィフルーツは中国原産である)と呼ばれていたが冷戦 下では共産圏 である中国 の名前で売ると西側諸国に受けが悪いと考えてキーウィフルーツと名前を変えて販売した。その後次第に浸透し1974年 には正式の品名になった。
ロシア
第一次世界大戦 のときにドイツ風の名称であるサンクトペテルブルク がペトログラードと言い換えられた。
イギリス
第一次世界大戦のときに ジャーマン・シェパード犬 がアルセイシアン (Alsatian、「アルザス 種」の意) 、ドイツ・ビスケット (German biscuits) が帝国ビスケット (Empire biscuit) と言い換えられた。第二次大戦後のチェコスロバキア でも似たような改名があった。また1917年 にジョージ5世 が王家の家名サクス=コバーグ=ゴータ家 をウィンザー家 と改称した。
フランス
第一次世界大戦のときにホイップクリーム を入れたコーヒー の呼称であるウィンナ・コーヒー (Café Viennois、「ウィーン のコーヒー」)がリエージュ ・コーヒー (Café Liégeois) と言い換えられた。アイスクリームのフレーバーでは、現在もこの言いかえが用いられることがある (chocolat liégeois,café liegeois)。
カナダ
第一次世界大戦のときにオンタリオ州 にあるベルリン市がキッチェナー と改名された。
ドイツ
第一次世界大戦の1915年にイタリア が参戦するとベルリン のレストランでイタリアンサラダがメニューから消えた。
日本
敵性語 を参照のこと。ちなみに日本では「フレンチフライ」より「フライドポテト 」または「ポテトフライ 」と呼ぶことが主流なため、メニューで「フレンチフライ」と言っても通じない事が多い。
イラン
2006年のムハンマド風刺漫画掲載問題 を受け、イラン国内のイスラム系団体がデニッシュ (شیرینی دانمارکی、「デンマーク のペイストリー 」)の改名を訴えた。イランの菓子職人組合が「ムハンマド の花 」(گل محمدی)という新名称を提案したが、個々の店舗では必ずしも遵守されなかった[ 19] 。
オーストラリア
^ 「フリーダム・フライ」「ジャガイモ飢饉」、世界を動かすジャガイモ 、AFPBB News、2007年10月18日。
^ フリーダムフライ 、時事用語事典 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス(2020年9月20日閲覧)
^ “Latest Status Info, TM Reg. 3220999 ”. 米国特許商標庁 (March 11, 2003). September 12, 2012 閲覧。
^ Sean Loughlin (March 12, 2003). “House cafeterias change names for 'french' fries and 'french' toast” . CNN . https://edition.cnn.com/2003/ALLPOLITICS/03/11/sprj.irq.fries/ 2017年4月8日 閲覧。
^ “French ”. Dictionary.com, LLC.. 2017年4月8日 閲覧。
^ “The History of French Fries ”. De Re IT Corp. June 6, 2002時点のオリジナル よりアーカイブ。2017年4月8日 閲覧。
^ “US Congress opts for "freedom fries" ”. BBC (March 12, 2003). March 8, 2013 閲覧。
^ Dan White (September 7, 2003). “Santa Cruz Makes Its Mark On The World ”. Santa Cruz Sentinel . Cannabis News. February 8, 2013 閲覧。
^ “House cafeterias change names for 'french' fries and 'french' toast” . CBC Canada . (March 27, 2003). オリジナル の9 Jun 2007時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/BPiU0 2017年4月8日 閲覧。
^ “Statement from French's Mustard ”. Urban Regends . About.com (April 16, 2003). 16 Jul 2012時点のオリジナル よりアーカイブ。2017年4月8日 閲覧。
^ The Gallup Poll: Public Opinion 2005 . Rowman & Littlefield Publishers . (2006). p. 71. ISBN 978-074-255-2586
^ “French fries protester regrets war jibe” . The Guardian . (24 May 2005). http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,12271,1491567,00.html 2017年4月8日 閲覧。
^ Christina Bellantoni (24 May 2005). “Hill fries free to be French again” . The Washington Times . http://www.washingtontimes.com/national/20060802-125318-3981r.htm 2017年4月8日 閲覧。
^ “Menu - Sides ”. Toby Keith's I Love This Bar & Grill . February 5, 2013 閲覧。
^ 2021年現在のメニュー では、ただの「フライ (fries)」になっている。
^ “Over Here: World War I on the Home Front ”. Digital History . 2006年7月12日 閲覧。
^ “French fries back on House menu ”. BBC News . 2006年7月23日 閲覧。
^ George Mikes, Eureka!: Rummaging in Greece , 1965, p. 29 : "Their chauvinism may sometimes take you a little aback. Now that they are quarrelling with the Turks over Cyprus, Turkish coffee has been renamed Greek coffee;..."
^ “Iranians rename Danish pastries” . BBC News. (2006年2月17日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4724656.stm 2008年4月8日 閲覧。