補習授業校(ほしゅうじゅぎょうこう 略称 補習校)は、普段の学校教育ではカバーしきれない内容を、特定の日に補習授業として行う学校。全日制の日本人学校とは異なる。この項目では日本以外の国にある日本語補習授業校について述べる。
日本人人口が少ない地域、また人口が多くても現地校に通う子どもの比率が高い英語圏、永住予定者が多いアメリカ合衆国、インターナショナル・スクールに通う子どもの多いアジア・ヨーロッパの一部地域などでは、全日制の日本人学校に代わって、平日の放課後または週末に国語を中心とした補習的内容の授業を行う補習授業校が多く存在する。補習校を併設する日本人学校もある。
「日本語」補習授業校と言うが、日本語を教える語学学級を持つ補習校は非常に少なく、ほとんどの補習校は国語や算数を日本語で教える日本の学校として認識されている。
時折「日本人学校」と称されるまぎらわしい補習校があるが、日本人学校は平日の通常時間帯にフルタイムで通う学校である。また日本人経営の現地私立校付属の土曜学校や学習塾が「補習校」を名乗っていることがあるが、教科書配布、現地採用教員の指導、校長・教頭の派遣などの文部科学省の援助や外務省の資金援助を受けられるのは日本政府の認可校のみである。ただし認可校であっても公立校ではなく、現地における私立校あるいは非営利団体として運営されているため、学費、入学審査、PTA参加義務などが課される。
日本の正式名称は「補習授業校」でも、現地での登録名や呼称が多少異なる学校も多い。また学校名に冠する都市の名前は最寄りの大都市であることが多く、実際の所在地と一致するわけではない。
補習校には、家族ぐるみで赴任している企業の駐在派遣社員や国家公務員が、年少の子弟の日本語力の低下や帰任後の進学などを危惧して設立されたものが多い。その大部分は、週末に領事館や日系企業の会議室などを借りて保護者ら自身がボランティア講師となって、できるだけ日本と同等の教育を行うことを目的とした私塾的なものに起源を持つ。その他には永住予定の保護者が集まって創立した学校もある。近年はどの国でも国際結婚や永住家庭の子どもの入学が増えている。
最も歴史の古い補習校は、1958年にワシントンD.C.で創立され、在米日本大使館の一室から始まったワシントン日本語学校である[1]。
2023年現在、世界51カ国と1地域に237校 の補習授業校が設置されており、約2万人の生徒が在籍している[2]。 学校規模は10人未満から1000人以上まで様々で、日本企業の進出や撤退に大きく左右されるが、2006年の調査時点では全世界の補習校のうち64.7%が50人未満の小規模校であった[3]。認定校では在籍する児童生徒数が一定数に達すれば、各都道府県の推薦を受けた公立学校の教員が文部科学省を通して日本から派遣される。派遣教員の給与・生活に関わる諸費は文科省、つまり日本国民の支払う税金によって賄われている。
日本の学校で使っている教材を使用し、通常文科省の負担で無償で教科書が配布される。「いつでも日本の学校に編入できるように日本の学校制度に基づいた教育を行う」ことを大前提としており、日本と同じ4月〜3月の年度構成はもとより、入学式、卒業式、運動会、遠足、社会見学などの行事が組み込まれている。また日本文化の継承として、保護者ボランティアの協力を得て、正月には百人一首やかるた大会、餅つき、書き初め、こままわしなど、夏には七夕の短冊作りや夏祭りといった季節のイベントが催されることもある。
100%の補習校が国語の授業を行っており、小学部では次いで81.8%が算数、32.3%が社会科,17.5%が生活、10.9%が理科も行っている。中学部でも国語100%、数学が81.5%、社会が41.1%、理科は15.3%となっている。授業時間数が限られているため、音楽、美術、保健体育などをカリキュラムに含む学校は非常に少ない[4]。
下記のランキング表は小・中学生のみを対象にしている。大規模な補習授業校は義務教育外の幼稚園や高等部を併設しており、実際の全校生徒数はこの表の数値より更に多い。2006年の調査[3]では義務教育の年齢にある日本国籍の子どもは北米が2万218人、アジアが2万1954人とさして変わらないが、北米の場合は56.8%が現地校などに通いながら補習校に在籍し、アジアでは63.2%が日本人学校に通っており補習校に在籍するのはわずか4.1%である。補習校はアメリカ合衆国に多く、日本人学校はアジアに多いことが下記の表からもうかがえる。
また2006年度[3][5]の児童生徒数を2002年度 [6][7]と比較すると、相変わらずあさひ学園(ロサンゼルス補習授業校)が最大規模であるが、ロンドンとともに児童生徒数が約350人減っている。
補習授業校 (平日放課後や週末) |
2002年度 (在籍者数) |
日本人学校 (全日制) |
2002年度 (在籍者数) | |
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1 | あさひ学園(ロサンゼルス) 1208名 | 1位(1576名) | 上海日本人学校 2367名 | 5位(903名) |
2 | サンフランシスコ補習授業校 1115名 | 2位(1270名) | 泰日協会学校(バンコク) 2288名 | 2位(1855名) |
3 | デトロイト補習授業校 806名 | 4位(847名) | シンガポール日本人学校 1658名 | 1位(1966名) |
4 | ロンドン補習授業校 787名 | 3位(1146名) | 香港日本人学校 1548名 | 3位(1593名) |
5 | ニューヨーク補習授業校 564名 | 5位(738名) | ジャカルタ日本人学校 862名 | 7位(815名) |
6 | シカゴ補習授業校 492名 | 6位(476名) | 台北日本人学校 810名 | 6位(891名) |
7 | コロンバス日本語補習校 474名 | 7位(469名) | クアラルンプール日本人学校 784名 | 4位(913名) |
8 | ボストン補習授業校 409名 | 圏外(397名) | 北京日本人学校 639名 | 圏外(446名) |
9 | シアトル日本語補習学校 405名 | 9位(409名) | デュッセルドルフ日本人学校 563名 | 8位(673名) |
10 | みなと学園(サンディエゴ)395名 | 8位(447名) | ロンドン日本人学校 466名 | 9位(534名) |
平日の放課後に毎日数時間授業を行うなど、授業時間数が平均的補習校よりはるかに多い学校を準全日制と言い、2008年現在世界に5校ある(オマーン、グアダラハラ、ダルエスサラーム、チェンナイ、マカッサル)。日本語に接する機会が増え、現地校のストレスを発散でき、自由に週末を過ごせるという利点があるが、現地校で疲れていて集中できない、放課後が拘束されてしまう、送り迎えが大変、遠距離に住む人間は放課後の授業に間に合わないなどの欠点もある。
週1日(土曜日)授業制を取る学校が圧倒的に多い。規模の大きい補習校は、現地校の校舎を借り(「借用校」という)、小規模の学校はビル、ホテル、教会などの部屋を借りることになる。大使館や日本人学校が利用できる運の良い学校もあるが、ほとんどの学校は、治安が良く交通の便の良い所に適切なサイズの場所をみつけるのに苦労する。借用場所や駐車場の確保に頭を悩ませる学校関係者は多い。また借用校と良い関係を保つために、どの補習校も騒音公害や器物破損などないよう非常に神経を使って借用校舎を利用している。あくまでも「借り物」の校舎なので、補習校用の荷物を保管しておくスペース(ロッカーなど)は無いか有っても非常に限られており、特に各クラス担任の教員は、教室に通常備え付けられている備品(ホワイトボードやマーカー)以外のフリップカードやポスターなどの教材を1日の授業ごとに自宅から持ち運びするなどの苦労をしている場合が多い。授業の準備や採点なども当然自宅で行う。
講師は現地採用である。合法で労働でき、週末の労働を厭わない、家族の協力を得られる等といった講師の確保は、補習校にとって切実な問題である。日本人の多い地域では日本の教員免許を持つことを条件に募集できるが、大半は教員経験がなくとも研修を経て採用され、年間を通して継続的に種々の学習会、協議会を重ね、指導力の向上に努めている。平日の仕事を持つ社会人は言うまでもなく、外国人を伴侶にもつ講師やマルチリンガル、高学歴者も多く、その多様な経験から、教科指導のみならず社会性、国際性に富んだ心の教育も実施されている。条件に合えば、留学中の学生も教壇に立つことができ、任期の長短に関わらず実際多くの学生が講師を経験している。ある程度の児童生徒数を確保している学校は、規模に準じて校長のみあるいは校長と教頭(赴任地でのみ。中高等部は兼任が多い)が日本から派遣されている。
生徒には保護者の転勤等で一時的に滞在するもの、保護者と共に永住するもの、そのうち家庭内の会話が日本語であるもの、現地語であるものなど、さまざまな環境の生徒が登校している。近年の傾向として、国際結婚が増えたため、世界各国の補習校において現地で生まれた永住予定の生徒の占める割合が年々高くなっている。生徒の日本語レベルに大きなばらつきがあるため、学校によっては日本語能力や日本帰国の有無を基準にクラスを分けたり、国際部や日本語科などを設けている。
授業内容は、国語と算数・数学か国語のみであることが多いが、理科や社会を教える学校もある。土曜日の朝9時前後から正午または午後3時頃まで、あるいは平日の午後3時間ほどの授業時間を持つ学校が多い。日本で1週間かけて行われる量の勉強を短時間で行うため生徒の負担は大きい。とくに小学校の低中学年は、親がそばで宿題を見て現地校の宿題と上手く両立できるようサポートしなければならない。
予算と人員の不足を補うために、多くの補習校では保護者による支援活動が組織的に行われている。登下校時の学校駐車場の交通整理から、運動会などのイベントの準備・進行、日本語図書貸し出しシステムの運営など、貢献は多大である。非常に限られた時間と人材で日本並みの学校を運営するためには協力・参加が不可欠であり保護者の負担も大きい。
児童生徒数の多い学校には幼稚園部や高等部があるが、大部分の小さな学校は小学部と中等部しかなく、学年を合併した寺子屋方式を取るところもある。
狭義における補習校は、経営母体が現地の日本企業商工会や日本人会で、子どもが帰国した際に日本の学校に順応しやすいよう主に学力面の準備・サポートをする学校である。しかし実際は永住予定の日本人保護者が集まって設立したり、学習塾のようなビジネスとして運営するものなども含めて補習校と呼ばれる。日本政府の援助対象とならない学校、文科省から認定されていない学校もある。逆に、日本政府の認定に加えて現地の私立学校や非営利団体として認可されている学校もある。
補習校に子どもを通わせるか否かは保護者の価値観や達成目標、経済力が関係してくる。また日本人学校と比べると保護者の負担が大きいため、時間的な余裕も必要である。地域差があり、多少日本語が苦手でも通える学校もあれば、日本語の面接や筆記試験を行い授業についていくに足る日本語能力を持っていないと入学を許可しない学校もある。とくに入学希望者数が定員を大幅に超える補習校では、日本語能力があっても不合格になる場合がある。また日本企業商工会によって創立された学校の中には、設立目的である「駐在家庭子女の帰国対策として日本と同等の学力維持」に重きを置き、進級審査や留年処置を定めるところもある。一方、日本文化に精通した人材を育成するという長期的な国益を尊重し、「帰国」予定のない永住者や日本に滞在経験のある非日本人などの子弟でも、一定の日本語力と学力・素行などを満たしていれば敢えて駐在員の子弟との区別はせず個々のケースの判断で入学させるところもあるなど、各学校の方針・判断によるところが大きい。
データは2007年9月現在(一部は更新) ただし〇印は2002年のデータ
( )内は授業日。準全日制:平日の毎日、週3制:週3日、週1制:週1日
◎印は、日本政府(文科省)から教員が派遣されている学校(2007年9月時点)
〇印は、小・中学の生徒数が100名以上の学校(2002年外務省調査)
△印は、日本政府(文科省)の認可を受けていない、または認可待ちの学校 (2007年9月時点)