議員立法(ぎいんりっぽう)とは、立法府に所属する議員の発議により成立した法律の俗称である。議員による法律案の提出などの立法行為そのものを指す場合もある。
日本の国会において成立する法律案の大多数が行政府たる内閣提出のものである。慣行として内閣提出の法律案を優先して審議する傾向にあり、議員の発議による法律案は提出されてもほとんど審議されることなく廃案または継続審議となることが多い。こうした背景から、国会議員による立法を特に議員立法と呼ぶようになった。また、両議院の委員会の提案する議案も議員立法にあたる。衆議院議員が提出した法律案は「衆法」、参議院議員が提出した法律案は「参法」と称される[注釈 1]。
実際に議員立法として成立する法律案は、議員が熱心にその問題に取り組んでいたり、利益団体から政治献金を受けた議員が立法することもある。ただし、既存の法律に対する整合性など、法律案そのものは作成に特殊な専門知識が要求されること等もあり、行政府の官僚が関与している場合が多い。その他、内閣が法案を提出する場合は、与党への事前説明等、手続がより煩雑になることから、それを避けるために議員立法の形式がとられる「依頼立法」もあり、この場合は完全に形式のみの議員立法となる。
日本では、国会が成立させた法律について内閣に拒否権を認めていないため、たとえ内閣の方針に反していても法律として直ちに成立するが、実際には与党が衆議院過半数を握っているため、政府・与党と利害が対立する議員立法に対して衆議院過半数である与党が党議拘束で否決の方針をとった場合、法案を成立させることができずに廃案に至る。ただし、一部の与党議員が党の方針に反して賛成(造反)し、もしくは多党連立政権で一部の与党が連立を無視して賛成することで、両院で法案賛成派が過半数以上になれば成立する例外も想定される[注釈 2]。
法律上の制度では、衆議院では20名以上、参議院では10名以上の賛成がないと提案することができない。さらに予算を伴う場合はそれぞれ50名、20名以上の賛成が必要となる(国会法56条)。この制限は成立の見込みが全くないのに少数の国会議員が露骨な地元利益還元を目標とする「お土産法案」提出の乱発を防止するために規定された。
さらに、衆議院においては、議員の所属する会派が機関承認をしていない場合、法案の発議は受理していない。各会派は議院事務局に、会派の承認の無い議員立法を受理しないよう申し入れ、事務局がこれにしたがっているためである。1952年4月24日の保守合同前の自由党の幹事長が党四役の署名がない場合は受理しないことを衆議院議事課長および議案課長宛の手紙で要請したのが前例となって現在まで続いている。
これにより、議員が単純に賛同者を集めただけでは提案できない。法令上の要件を満たしている議案を、事務局が政党執行部の申し入れにしたがって法案を受理しないのは、会派内部の規定による議員への統制(会派の除名など)とは異なり、法令上問題があるとの見解がある。平成5年、「国政における重要問題に関する国民投票法案」が九十二名の賛成者名簿とともに衆議院事務局に提出されたが、機関承認がないことを理由に事務局によって保留され、会期末を迎え不受理に終わった。この件に関する損害賠償請求は、議院の自律権の範囲内であるとして、裁判所の審査権は及ばないとして棄却されている(東京高判平成9年6月18日判時1618号71頁。原審・東京地判平成8年1月9日訟務月報43巻4号1148頁)。
これらの法律案の作成においては、両議院にそれぞれ設置された議院法制局が議員に協力する。議員の立案依頼に対して、その原案の問題点などを指摘し、これを繰り返して作られた法案を最終的に議院法制局が審査し[注釈 3]、問題が無ければ議員により提出される。なお、議院法制局の人員数が政府のそれと比して少ない等の要因のため、法案起草の過程において政府(各府省)による非公式の内容確認(実質的な審査)が議院法制局からの善意の情報提供という形式によって実施される場合もある。
地方議会においても国会と同様の傾向が見られ、成立する条例案のほとんどは首長提出のものである。
アメリカ合衆国では厳格に三権分立がなされており、大統領には連邦議会に対する法案提出権さえ認められておらず、議員立法のみとなっている。ただし、教書を送付し立法化を促したり、近しい議員に法律案の提出を依頼する、拒否権を背景に法案を修正させるなどして、立法過程に関与することは可能である。また貿易促進権限に基づく通商協定の実施法案については、大統領が上下両院に実施法案を送付し、大統領の送付した法案が、上下両院の与党院内総務(またはその指名したもの)により同時に両院に提出されるという手続きが定められている。