![]() 2016年、京都賞授賞式での金出 | |
人物情報 | |
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生誕 |
1945年10月24日(79歳)[1][2] 日本兵庫県(現在の丹波市)[2][3] |
居住 |
日本 アメリカ合衆国ピッツバーグ[4] 日本兵庫県丹波篠山市[4] |
出身校 | 京都大学 |
学問 | |
研究分野 |
コンピュータビジョン ロボット工学 |
研究機関 |
京都大学工学部 カーネギーメロン大学 産業技術総合研究所 大阪大学産業科学研究所 奈良先端科学技術大学院大学 京都大学高等研究院 |
博士課程指導教員 | 坂井利之、長尾真[5] |
博士課程指導学生 | Rosen Diankov[6][7] |
学位 | 工学博士(京都大学) |
特筆すべき概念 | 素人発想、玄人実行(素人発想 玄人実装) |
主な業績 | 顔写真認識、折り紙理論、Lucas-Kanade法、Tomasi-Kanade因子分解法、KLT-トラッカー、アメリカ大陸横断自動走行車「NavLab」、仮想化現実「3D Room」「Eye Vision」、スマートヘッドライト |
影響を受けた人物 | アレン・ニューウェル[8][9]、ラジ・レディ[9] |
影響を与えた人物 | 羽生善治[10]、深尾隆則[11] |
学会 | 日本ロボット学会、IEEE、ACM、アメリカ人工知能学会、米国工学アカデミー[12]、日本学士院[13] |
主な受賞歴 |
エンゲルバーガー賞技術部門(1996)[14][1] 京都賞先端技術部門(2016)[15] IEEEファウンダーズメダル(2017)[16][17] |
公式サイト | |
Takeo Kanade |
金出 武雄(かなで たけお、1945年(昭和20年)10月24日[1][2] - )は、コンピュータビジョンやロボット工学を専門とする計算機科学者。顔写真解析や動画像の特徴点追跡手法、3次元画像復元の折り紙理論を構築。仮想化現実を提唱し[18][15]、アメリカ大陸横断自動走行車も実現[19]。「一番いろんなことをやったロボット研究家」とも呼ばれた[20]。スーパーボウルに投入された「EyeVision」でも知られる[21][15]。京都大学工学博士、2019年文化功労者[22][23][24]。
京都大学助手、助教授、カーネギーメロン大学高等研究員、教授、ワイタカー記念教授、ワイタカー記念全学教授、ロボティクス研究所・所長、生活の質工学センター[注釈 1]・センター長を歴任[2]。産業技術総合研究所ではデジタルヒューマン研究センター長を務め、2015年より名誉フェロー[2]。
2014年以降もカーネギーメロン大学に籍を置きながら、大阪大学産業科学研究所 特任教授、奈良先端科学技術大学院大学国際共同研究室 客員教授、理化学研究所 特別顧問、京都大学高等研究院 招聘特別教授、日本学士院会員を歴任[2][22][13]。エンゲルバーガー賞、京都賞先端技術部門、IEEEファウンダーズメダルなどの受賞者[22][16][2]。
兵庫県氷上郡春日町(現・丹波市)出身[2][3]。中学校では生徒会長も経験し[27]、兵庫県立兵庫高等学校を経て1964年に京都大学工学部電子工学科へ進学。1968年に学部を卒業し、1970年に同大学大学院電子工学専攻を修了し、博士課程に進学[27][2]。
大学院では坂井利之の研究室に入り、「世界で初めて」「面白い」研究を志向し、音声タイプライターを世界初めて実現した坂井に圧倒されたという[28]。また、チューリングの書籍やミンスキーの論文にも親しんだ[28]。金出は画像処理の研究に取り組み、途中で行き詰りながらも長尾真の助言で万国博覧会の顔画像データベースの解析に取り組む[29][30]。
1973年に京都大学の助手に着任し[1][2]、1974年に博士後期課程を修了し、工学博士の学位を取得[31]。なお、助手をしていた頃にカーネギーメロン大学のアレン・ニューウェルと知り合い、客員として同大のラジ・レディのもとに1年赴任する[9]。その後、1976年に京都大学助教授に昇進する[1]。カーネギーメロン大学にロボティクス研究所ができる際にラジ・レディから誘われ、再度渡米を決意する[32]。
1980年からカーネギーメロン大学計算機科学科・ロボティクス研究所高等研究員[32](計算機科学科にも籍を置く[1][2])。後にマサチューセッツ工科大学教授となる浅田春比古と、ダイレクトドライブロボットを開発した[33]。1986年頃には超高速3次元レンジファインダも実現している[34]。1985年に同大学教授[2]。1986年から大陸横断自動走行車の開発を開始[35]。
1992年-2001年にはロボティクス研究所の所長を務める。1995年には自動走行車「NavLab5」がハンドル手放しによるアメリカ大陸横断を、98.2パーセントの自動運転で実行する[19][36][3]。1996年にはロボット分野最高の賞ともいわれる[37]エンゲルバーガー賞(技術部門)を受賞する[14][1]。
2001年の第35回スーパーボウルにおいて、スタジアム上にグラウンドを取り囲むように設置した30台のテレビカメラのパン・チルト・ズームを同期して制御、撮影する映像エフェクト技術(Eye Vision)を開発し[38][39]、CBSの全米テレビ中継で採用された[18][40]。金出自身も同中継にビデオ出演し、当時スーパーボウル中継に出演した唯一の日本人とされた[注釈 2]。
2001年に産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボ長併任となり、2003年からデジタルヒューマン研究センター長(センターは後にデジタルヒューマン工学研究センターに改称)。2003年には自著『素人のように発想し、玄人のように実行する』が出版され(NCID BA62447617)、翌年文庫版も発行される(NCID BA72620296)。同書に記載された金出の研究哲学は話題を呼んだ[41][42](「#素人発想、玄人実行や「#金出語録」も参照。)。
クオリティ・オブ・ライフ (QoL:Qolity of Life) にも着目し[25]、2006年にはカーネギーメロン大学に生活の質工学センター[注釈 1]を設立、センター長に就任する[15]。2009年にはブルース・ウィリス主演の映画「サロゲート」において、開発者の一人(いわゆる「本人役」)としてカメオ出演している[43]。なお、この時期の指導学生にOpenRAVEを開発したRosen Diankovがいる[7][6][注釈 3]
2014年には大阪大学産業科学研究所の特任教授に着任。また、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科の客員教授にも就任し[22]、戦略的国際共同研究ネットワーク形成プログラム・国際共同研究室整備プロジェクトに設置された「NAIST International Collaborative Laboratory for Robotics Vision」において、金出は研究統括を務めている[46][47]。2015年には産業技術総合研究所 名誉フェローとなり、翌2016年には理化学研究所 革新知能統合研究センター 特別顧問に就任[2][48]。同年、京都賞(先端技術部門)を受賞した[15]。
2017年から京都大学高等研究院招聘特別教授に就任[22]。2019年には文化功労者に選出され[23][24]、2020年には学士院会員に選出されている(第2部第5分科)[13]。また、PwCコンサルティング合同会社のTechnology Laboratoryに参画し、2022年にはWIRED COMMON GROUND CHALLENGEの審査委員も務めた[49]。2024年12月現在、舘暲らが創業して松尾豊がAI技術アドバイザーを務める、TELEXISTENCE株式会社のAIアドバイザーも務めている[50]。
金出は研究室メンバーに対して毎週1人につき1時間、ミーティングの時間をとっており、それは真夜中の午前1時から始まることもあったという[41]。また、「Keep it Simple, Stupid!」(KISS:キス、)という俗語を学生に対して推奨し[58]、自身の博士課程の頃の体験をもとに「できる奴ほど悩むものだ」と行き詰った学生を励ましていた[59]。
「楽しく研究」と題した学会誌の随筆では「楽しんで面白いことをやってきた」と述壊しており[28]、同記事の中で高校生への講演の後に「あなたは楽しんでいるね。カーネギーメロン大学にいくら払っているのか」と言われた逸話を紹介している[60]。また、他人にアイデアを話して切磋琢磨することを重視し、「競争しながら共創を」と語っている[3]。
金出は自作の座右の銘として「素人発想玄人実装」を考案し、書家の國井久美子に書いてもらった書を自宅に飾っている[4][61]。実装という言葉は一般になじみがないため、講演や書籍では「素人発想、玄人実行」という言葉を用いた。なお、素人発想、玄人実行というものの、決して素人と玄人が組めば良いと言っている訳ではない[62][63]。
事例としてゼロックス社のパロアルト研究所がパーソナルコンピュータの原型「Alto」を開発したことや、ホンダや「ASIMO」を、ソニーが「AIBO」を開発したことをあげ[64][65]、生活の質工学センターにおけるスマートヘッドライトの開発例も紹介している(雨粒の反射が問題になるなら雨粒に光を当てなければよいという発想)[35]。また、博士課程の学生が博士論文を書く頃に、素人と玄人の狭間でよい仕事をすることが多いと指摘している[61]。
さらに「成功を疑うのが一番難しい」と指摘し、ゼロックスがコピー事業の成功から抜け出せずにAltoを事業化できなかったことを指摘している[64]。また、「素人発想玄人実行」は自身に対する戒めでもあると語っており[61]、Lucas-Kanade法も当初金出自身は論文化に否定的だったという[66][67]。
2019年に淺間一は「金出語録」として以下を挙げている[68]。
『日本機械学会誌』における2006年のインタビュー記事では、役に立つ研究だけでなく面白いから研究をする場合もあるのでは?という大学院生の問いかけに対し、「面白い」の裏にある背景や、持っている理論や技術から始まることを指摘し、
と応用と研究の関係を語っている[69]。また、研究やプロジェクトにおける「フィネス」「何とかしてしまう。」「正しく妥協をする。問題が妥協の仕方範囲を教え決めている。」という観点を主張し[58]、特に「フィネスを馬鹿にしたり、フィネスとインチキさの差がわからない人は成功しない」と、その重要性を強調した[58]。
なお、「メッセージのある研究をしろ」と語り[30]、学会誌の解説ではアレン・ニューウェルが学生に語っていた「問題の一つ一つが『解いてくれ、解明してくれ』と恋人を誘うように我々研究者を待っているのだ」という言葉を取り上げ[12]、研究者や学生向けの講演でも
と結んでいる[70]。
(講演動画)