長いお別れ The Long Goodbye | ||
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著者 | レイモンド・チャンドラー | |
発行日 |
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発行元 |
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ジャンル | ハードボイルド | |
国 |
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ページ数 | 320 | |
前作 | かわいい女 | |
次作 | プレイバック | |
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『長いお別れ』(ながいおわかれ、原題:The Long Goodbye)は、1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。他の訳題には『ロング・グッドバイ』『長い別れ』(ながいわかれ)がある。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第6作。
『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶチャンドラーの長編である。感傷的でクールな独特の文体、台詞、世界観に魅了されるファンは今でも多い。チャンドラーのハードボイルド小説は、長編短編問わず、ほとんどが探偵の一人称による語りだが、特に本作以降ハードボイルド小説というものはこの形式が模倣を超えて定番化したとさえ言え、この形式をとるハードボイルド小説の人気はいまだ衰えていない。「ギムレットには早すぎる」や「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官とさよならを言う方法はまだ発明されていない。」(いずれも清水俊二訳)などのセリフで知られる。
1973年にロバート・アルトマン監督により映画化され(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)、2014年に日本で『ロング・グッドバイ』のタイトルでテレビドラマ化された。
ロサンゼルスの私立探偵フィリップ・マーロウは、酔っ払いの文無しながら品性のある男、テリー・レノックスに惹かれ、2度にわたり彼を助ける。レノックスもまたマーロウを好きになり、億万長者ハーラン・ポッターの娘シルヴィアとよりを戻すと、毎夕、マーロウとふたりで飲みに出かけるようになる。が、マーロウは、ふしだらな妻のいる有閑階級に戻ったレノックスに違和感を覚え、ある日、今の豊かな生活を自嘲してしゃべりすぎるレノックスに腹を立て、仲たがいしてしまう。
そんな会わない日が続いたある未明、レノックスがマーロウの家を不意に訪れ、メキシコとの国境の街ティファナまで車で送ってほしいと頼みに来る。遠回しの言い方だったが、レノックスの妻、シルヴィアが自宅敷地内のゲストハウスで殺されたのだ。レノックスが殺したのではないと信じるマーロウは、あえて深く訳を訊かないまま、彼をティファナへ送り、レノックスは礼を言って、そこから飛行機でメキシコへと逃亡する。
家に帰ると、レノックスを殺人容疑、マーロウを事後従犯と目した警察が待っており、マーロウはしょっぴかれる。友と自らの探偵としてのメンツを守るためにマーロウは黙秘を続け、官憲に暴力をふるわれる。しかし検事局の手が入り、どこかからエンディコットなる弁護士が手回しされ、レノックスがメキシコのオタトクランという田舎町のホテルで自殺したという情報が入るに至り、この事件は殺人犯の自殺で幕が引かれたとして、マーロウは釈放される。
しかしレノックス自殺の報を聞いても、マーロウはレノックスが殺人を犯したなどとは信じない。ましてや殺した女性の顔を滅茶苦茶にするなどは彼がやったことに思えない。億万長者ハーラン・ポッターの娘が殺されたというのにマスコミが騒ぎ立てないのも変だ。またヤクザのメネンデスが、ラス・ヴェガスの大物ランディー・スターともどもノルウェー戦線で同じ部隊にいたレノックスに助けられた恩義があるのにレノックスが自分たちでなくマーロウを頼ったことに我慢がならないということを理由に、この事件から身を引けと脅迫してくるのも妙だ。
そんなとき、レノックスが死のまぎわに書いた手紙がマーロウの元に届く。そこには、ふたりでよく飲み交わしたギムレットをバーで飲んだら自分のことは忘れてくれという言葉と5000ドル札の謝礼が入っていた。
そんなおり、マーロウは、アルコール依存症に陥っているベストセラー作家ロジャー・ウェイドの飲酒の監視を、ウェイドの妻アイリーンと、ニューヨークの出版者スペンサーから依頼される。マーロウはいったんは断るものの、アイリーンから、夫がいなくなったので見つけてほしいとあらためて頼まれ、ウェイドを見つけてくる。その仕事の中で、マーロウは、レノックスがニューヨークでは別名を名乗っていたことや、殺されたシルヴィアとウェイド夫妻は富裕地区アイドル・ヴァレーの住人として面識があったことなどを知る。
マーロウはウェイドの屋敷で行われたカクテル・パーティーの当日、あらためてウェイド自身から飲酒の監視を頼まれたり、アイリーンが昔の恋人にいまだ想いを寄せている話を聞かされる。一週間後、ウェイドからすぐに来てくれと言われて飛んでいくと、ウェイドはピストルで自殺を図る。それを介抱しているあいだにマーロウはアイリーンに誘惑されるが、アイリーンは10年前に死別した恋人の面影をマーロウに見ているようなことを口にする。
マーロウは、シルヴィアの姉リンダ・ローリングから、彼女らの父、ハーラン・ポッターが会いたがっているという話を聞き、大物ポッターと面会する。ポッターは、シルヴィアとウェイドに関係があったことを知っており、これ以上、ふしだらだった娘シルヴィアの悪名が広まってほしくないがため、マーロウにもう首を突っ込むなと釘を刺してくるが、マーロウはウェイド夫妻が自分を頼ってくるのだと返事をする。かつて弁護士をよこしたのも実はポッターで理由は同じだった。
ウェイドが支払いもあって再びマーロウを自宅に呼び寄せる。が、マーロウが少し外に出たすきにウェイドは死体となって見つかり、それは自殺と判定される。一方でマーロウは、アイリーンがレノックスと関係があったために、自分と関わりを持ちたがっているのだと察し、あらためてレノックスの身元調査に乗り出す。そうして分かったのは、レノックスとアイリーンがかつてロンドンで結婚し、その後、レノックスが戦地へ行ったので別れ別れになったという過去であった。
ウェイドの遺作原稿をとりにきたスペンサーとともに、アイリーンの元を訪れたマーロウは、その場でそのことを暴露する。アイリーンはウェイドと再婚し、ここで生活しだしたとき、主治医であるローリングの家で、シルヴィアの夫となったレノックスと再会し、ショックを受けたのだと告白する。レノックスが一度はシルヴィアの元を去ったのも同じ理由だった。しかしアイリーンの、シルヴィアを殺したのはウェイドだという発言は、簡単にマーロウに嘘であることを見破られる。アイリーンが、かつてと今の夫の両方を奪ったシルヴィアを嫉妬のために殺し、それを知った夫のウェイドも殺したのだった。ウェイドの過度の飲酒もそこに一因があった。
アイリーンはその旨をスペンサー宛ての告白遺書に記して自殺する。その告白書は、いったん事件を幕引きした検事局と警察にとってはメンツがつぶされるものだったので、秘匿されんとするが、マーロウはそのコピーをくすね、レノックス無実の証明のため、新聞社に手渡す。その記事を読んだヤクザのメネンデスは「身を引け」という脅迫をマーロウが無視したとしてマーロウを襲うが、待ち受けていた警官に逮捕される。メネンデスはなぜ身を引けと言い続けるのか。マーロウは、もうひとりのレノックスのヤクザ仲間スターや、メキシコでレノックスの遺体を確認した弁護士エンディコットなどに、レノックス自殺の場面におかしいところがあるのはなぜかと探りを入れる。
すると一か月後、ランディー・スターの紹介状をもって、マイオラノスなる優雅なメキシコ系の人物が、レノックスの死に際を知っているといって、マーロウの元を訪れる。しかし彼こそ整形をしたレノックスなのであった。彼はマーロウを踏み台にしたのち、スターやメネンデスの力を借りて、生き逃れていたのだった。ただマーロウに対して申し訳ない気持ちは持っており、それで5000ドル札も送ったのだ。レノックスはかつてのように飲みに行こうとマーロウを誘うが、マーロウは5000ドル札を返し、レノックスへのさよならはもう言ってしまったのだと拒絶する。お互いを分かりあえなくなったふたりは別れを告げる。
1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では13位に選ばれている(他のチャンドラー作品としては8位に「大いなる眠り」、21位「さらば愛しき女よ」)。日本ではハヤカワミステリーベスト100など、ほとんどのランキングで、チャンドラー作品としては1位を保ち傑作とする人が多い。
村上春樹は『カラマーゾフの兄弟』と『グレート・ギャツビー』と本作を、もっとも影響を受けた作品3作として挙げており、『羊をめぐる冒険』の物語も本作の影響をよく指摘される。長らく日本では清水俊二訳によるものが出版されていたが、2007年には村上春樹、2022年には田口俊樹、翌2023年には市川亮平による翻訳版も出版された。
同じ出版社から刊行されている清水俊二訳の『長いお別れ』と村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』は両方とも流通している。
出版年 | タイトル | 出版社 | 文庫名等 | 訳者 | 巻末 | ページ数 | ISBNコード | カバーデザイン | 備考 |
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1958年10月 | 長いお別れ | 早川書房 | 世界探偵小説全集 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)260 |
清水俊二 | 370 | ||||
1972年6月 | レイモンド・チャンドラー | 早川書房 | 世界ミステリ全集5 | 清水俊二 | 748 | 他に清水訳の 『さらば愛しき女よ』 『プレイバック』を収録 | |||
1976年 4月1日 |
長いお別れ | 早川書房 | ハヤカワ・ミステリ文庫HM 7-1 | 清水俊二 | 清水俊二 「あとがきに代えて」 | 545 | 978-4150704513 | カバーフォーマット:辰巳四郎、 カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン ほか |
電子書籍も刊 2012年 |
2007年 3月8日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | (ハードカバー単行本) | 村上春樹 | 訳者あとがき | 584 | 978-4152088000 | チップ・キッド | |
2009年 3月6日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | Raymond Chandler Collection (軽装版) |
村上春樹 | 訳者あとがき 準古典小説としての『ロング・グッドバイ』 |
711 | 978-4152090102 | 装画 浅野隆広、 カバーデザイン 坂川栄治+田中久子 (坂川事務所) |
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2010年 9月9日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | ハヤカワ・ミステリ文庫HM 7-11 | 村上春樹 | 訳者あとがき 準古典小説としての『ロング・グッドバイ』 |
645 | 978-4150704612 | 坂川栄治+田中久子 (坂川事務所) |
電子書籍も刊 |
2022年 4月28日 |
長い別れ | 東京創元社 | 創元推理文庫M-チ-1-7 | 田口俊樹 | 訳者あとがき 解説 杉江松恋 |
599 | 978-4-488-13107-4 | カバー装画=Edward Hopper Nighthawks(部分) (C)Alamy/PPS通信社 カバーデザイン=岡本洋平(岡本デザイン室) |
電子書籍も刊 |
2023年 5月30日 |
ザ・ロング・グッドバイ | 小鳥遊書房 | (四六判) | 市川亮平 | 訳者あとがき | 460 | 978-4-867-80018-8 | 装幀 鳴田小夜子 (KOGUMA OFFICE) |
ロスアンジェルスの地図、 邸宅の見取り図等挿絵数点収録 |
ロング・グッドバイ | |
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The Long Goodbye | |
監督 | ロバート・アルトマン |
脚本 | リイ・ブラケット |
原作 |
レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』より |
製作 | ジェリー・ビック |
製作総指揮 | エリオット・カストナー |
出演者 | エリオット・グールド |
音楽 | ジョン・ウィリアムズ |
撮影 | ヴィルモス・スィグモンド |
編集 | ルー・ロンバード |
配給 | ユナイテッド・アーティスツ |
公開 |
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上映時間 | 112分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
1973年に監督ロバート・アルトマン、主演エリオット・グールドにより映画化された。邦題は『ロング・グッドバイ』(原題は The Long Goodbye )。
内容は1970代風にアレンジされており、エリオット・グールドが演じる探偵フィリップ・マーロウが友人テリー・レノックスの謎の死をきっかけにある事件に巻き込まれていく。
役名 | 俳優 | 日本語吹替 |
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TBS版 | ||
フィリップ・マーロウ | エリオット・グールド | 森川公也 |
アイリーン・ウェイド | ニーナ・ヴァン・パラント | 小谷野美智子 |
ロジャー・ウェイド | スターリング・ヘイドン | 宮川洋一 |
マーティ・オーガスティン | マーク・ライデル | 青野武 |
ドクター・ヴェリンジャー | ヘンリー・ギブソン | 千葉耕市 |
ハリー | デヴィッド・アーキン | |
テリー・レノックス | ジム・バウトン | |
モーガン | ウォーレン・バーリンジャー | |
ルターニャ・スウィート | ルターニャ・アルダ | |
デイヴ(ソクラテス) | デビッド・キャラダイン | |
チンピラ | アーノルド・シュワルツェネッガー | |
不明 その他 |
日高晤郎 宮下勝 藩恵子 蟹江栄司 仲木隆司 峰恵研 広瀬正志 平林尚三 山岡葉子 葵京子 加川三起 峰あつ子 | |
演出 | 蕨南勝之 | |
翻訳 | 入江敦子 | |
効果 | 遠藤堯雄 桜井俊哉 | |
調整 | ||
制作 | 東北新社 | |
解説 | 荻昌弘 | |
初回放送 | 1978年11月13日 『月曜ロードショー』 |
※日本語吹替は2015年10月7日発売の『吹替の名盤』シリーズ 〈テレビ吹替音声収録〉HDリマスター版DVDに収録)
ロング・グッドバイ | |
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ジャンル | テレビドラマ |
原作 |
レイモンド・チャンドラー 『ロング・グッドバイ』 |
脚本 | 渡辺あや |
演出 | 堀切園健太郎 |
出演者 |
浅野忠信 綾野剛 小雪 古田新太 冨永愛 柄本明 |
時代設定 | 1950年代 |
製作 | |
プロデューサー |
(制作統括) 城谷厚司 谷口卓敬 |
制作 | NHK |
放送 | |
放送国・地域 | ![]() |
放送期間 | 2014年4月19日 - 5月17日 |
放送時間 | 土曜21:00 - 21:58 |
放送枠 | 土曜ドラマ (NHK) |
放送分 | 58分 |
回数 | 5 |
公式サイト |
『ロング・グッドバイ』(英語表記:THE LONG GOODBYE)のタイトルでテレビドラマ化。2014年4月19日より5月17日まで土曜日21:00 - 21:58に、NHKの「土曜ドラマ」枠で放送された。全5話。主演は浅野忠信で、デビュー26年にして初の連続ドラマ主演となる[7][8]。キャッチコピーは「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。」。1950年代の東京を舞台に描かれる。
複数話・単話登場の場合は演者名の横の括弧()内に表記。
各話 | 放送日 | サブタイトル |
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第1回 | 4月19日 | 色男死す |
第2回 | 4月26日 | 女が階段を上る時 |
第3回 | 5月 | 3日妹の愛人 |
第4回 | 5月10日 | 墓穴にて |
最終回 | 5月17日 | 早過ぎる |
平均視聴率 4.9%[9](視聴率は関東地区・ビデオリサーチ社調べ) |
NHK 土曜ドラマ | ||
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前番組 | 番組名 | 次番組 |
足尾から来た女
(2014.1.18 - 2014.1.25) |
ロング・グッドバイ
(2014.4.19 - 2014.5.17) |
55歳からのハローライフ
(2014.6.14 - 2014.7.12) |