AH-1W スーパーコブラ
AH-1W スーパーコブラ(英語: AH-1W SuperCobra)は、アメリカ海兵隊の要求に基づいてベル・ヘリコプター・テキストロン(ベル・エアクラフト)社が開発したAH-1 コブラの発展型である。形式のWのフォネティックコードから非公式に「ウィスキーコブラ(Whiskey Cobra)」とも呼ばれる。現在では、AH-1Wをさらに発展させたAH-1Z ヴァイパーも登場している。
本記事では、前身となるAH-1J シーコブラ(AH-1J SeaCobra)とAH-1T インプルーブド・シーコブラ(AH-1T Improved SeaCobra)についても解説する。
1967年にアメリカ陸軍へ配備されたAH-1G コブラは、ベトナム戦争で予想通りの戦果を上げ、アメリカ海兵隊でもAH-1の装備を1968年5月29日に決定した。アメリカ海兵隊での運用は、洋上の強襲揚陸艦などから発進して海岸線付近の友軍地上部隊を支援し、また、発進した艦船に帰投するなど、長い洋上飛行が想定されていた。このため、エンジンを双発化して、1基が故障などで停止しても飛行できることが求められた。
こうした要求からアメリカ海兵隊は、AH-1のエンジンにツインパックのプラット・アンド・ホイットニー・カナダ社製T400ターボシャフトエンジンを選定、M197 20mm機関砲ターレットと共に海兵隊向けAH-1に搭載されてAH-1J シーコブラと命名された。
AH-1J先行量産型初号機は1969年10月14日にロールアウトし、第一次発注分の49機が1970年中期から引き渡しが開始され、早速ベトナム戦争に投入された。1973年初めには20機を追加発注し、1974年4月-1975年2月にかけて納入された。しかしその性能は海兵隊の要求を完全には満たしておらず、さらなる改良が進められることとなる。
ベル社では、アメリカ海兵隊向けの発達型としてモデル309 キングコブラを開発し、1971年9月に初飛行させた。しかし、アメリカ海兵隊ではこのキングコブラを採用せず、エンジンを出力向上型へ換装するとともに大出力化対応として駆動システムに民間型のモデル214のものを使ったAH-1Tの装備へと進んだ。
AH-1Tは1975年6月に発注され、初号機は1976年5月20日に初飛行した。1977年10月15日からアメリカ海兵隊への引き渡しが開始され、57機発注されたうちの51機は後にBGM-71 TOW対戦車ミサイルを携行できるようになり、機首にはM65 TOW照準器が付けられた。AH-1Tはグレナダ侵攻などで実戦投入されている。
アメリカ海兵隊ではAH-1Tにより高い作戦能力を求め、さらなる発展型の装備を計画した。この発展型には最大推力1,285kWのゼネラル・エレクトリック製T700-GE-700ターボシャフト・エンジンを双発装備することとし、AH-1TをT700-GE-401に換装したAH-1T+試作試験機が製作され、1983年11月16日に初飛行した。AH-1T+は主にエンジンの実証試験に使用され、飛行試験中には量産型に向けての各種改修も施された。
アメリカ海兵隊では、1985会計年度にまず22機を発注し、以後装備を進めることとなった。量産型にはAH-1Wの名称が与えられ、新造機169機、整備訓練用に2機が生産された。また、AH-1Jは全機退役させるが、AH-1Tは42機をAH-1W規格に改修することとした。
また、AH-1Wの兵装システムは当初、AH-1Tと同様であったが、1990年代に入ると性能向上改修第1段階が開始され、イスラエルのIAI-タマム製夜間目標指示システム(NTS)を装備することにより、AGM-114ヘルファイアやTOW対戦車ミサイルを昼夜間および天候状況を問わず使用できるようになった。また、就役後期には赤外線放出を抑えたエンジン排気口を追加装備している。
AH-1Wは湾岸戦争で初めて実戦投入され、同戦争で投入された攻撃ヘリコプターで最も高い稼働率を記録している。
AH-1Wのアップグレード作業と並行して、AH-1W近代化計画としてAH-1(4B)Wが開発され、トランスミッションの出力増加、メインローターの4枚化、安定板の設計変更、グラスコックピット化、軍規格1553Bデジタル・データバスの二重装備、小翼の大型化などの改善が盛り込まれた。ただ、この近代化計画は後に変更が加えられ、AH-1Z ヴァイパーとして実用化された。
AH-1Z計画は、海兵隊が装備するUH-1N ツインヒューイの性能向上と並行して行うもので、共通の性能向上型コンポーネントを使うことで改修費用抑制も狙っている。性能向上項目としては、新型4枚ブレードのメインローター、新型トランスミッションの採用、先進の統合電子機器/フルカラー・グラスコックピットの装備、対電磁波能力および塩害対策仕様、T700-GE-401Cエンジンの装備などで、AH-1Zではこれらに加えて、第3世代の光学センサー・システムの装備、広範な搭載兵装が加えられる。
1996年に海兵隊はAH-1Z計画を進める方針を固め、同年11月15日にベル社へ開発契約を与えた。これに基づいて3機の試作機が製作され、2000年11月20日に試作初号機NAH-1Zが工場より初出荷され、同年12月7日に初飛行した。NAH-1Zによる飛行試験中に水平安定板の設計変更が必要であることが判明し、試作2号機の改修作業に遅れが生じた。この結果、量産改修も2004会計年度からの承認となり、初期作戦能力(IOC)獲得も2007年に変更された。量産改修が開始されれば、2004および2005会計年度は低率初期生産(LRIP)となるが、2006会計年度以降は作業が最大となり、年間24機のAH-1WがAH-1Zに再生される予定で、海兵隊では180機のAH-1Wを改造して配備する計画としている。 その後2020年 10月19日に海兵隊から最後の機体が退役し、海兵隊での34年の就役期間に幕を閉じた。
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